近年、我々は細胞内クロライドイオンが、細胞増殖や細胞周期、細胞分化など様々な細胞機能を調節していることを明らかにしてきた。また、我々の研究により、クロライドイオンがGタンパク質や細胞骨格タンパク質tubulinのGTPase活性を制御しているという興味深い知見を得ている。一方、走化性や電気走性など細胞が遊走する際、細胞は静止状態から、前後の極性を持つ状態に変化する。その際に、RhoやPIP3などの様々なシグナル分子が関与することが知られている。細胞内のクロライドイオン濃度は、Na-K-2Cl共輸送体による取り込みと、K-Cl共輸送体やクロライドチャネルなどによる排出により調整されている。我々の大規模なスクリーニングにより、幾つかのクロライドチャネルのノックダウンにより、電気走性は有意に促進された。我々は、電気走性の際の前後極性形成において、クロライドチャネルを介した細胞内クロライドイオン濃度(およびその変化)が低分子量Gタンパク質Rhoの活性を制御し、Rhoによる極性形成・維持に重要であるという仮説をたて、それを検討した。 (1)クロライドイオンチャネルを阻害した際の細胞内クロライドイオン濃度を測定したところ、細胞内クロライドイオンは増加する傾向が見られた。また、その際の電気走性が促進されるかを検討したところ、弱いながらも促進が見られた。他のクロライドイオン輸送体による補償も考えられるため、他のクロライドイオン輸送体に対する阻害剤の検討が必要であると考えられる。(2)電気走性時におけるクロライドチャネルANO1の局在を、間接蛍光抗体法により調べたところ、ANO1は細胞膜全体に分布していた。
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