研究課題
本研究では、原発巣と転移巣における癌細胞の細胞外環境変化が細胞内Cl-濃度変化(癌細胞のクロライドシフト)させることで細胞の接着能や運動能が変化し、一連の癌転移が起こるという仮説の検証を行う。これらの結果から、「癌細胞のクロライドシフト」が癌転移の分子メカニズムである可能性を検討する。平成28年度は、pCO2変化が癌細胞の細胞内Cl-濃度へ与える影響、細胞内Cl-濃度変化が癌細胞の細胞接着因子発現、細胞接着能にあたえる影響について検討した。pCO2変化時の細胞内Cl-濃度に与える影響については、pCO2変化時の細胞内Cl-濃度測定系の確立を目指した。細胞内Cl-濃度変化が、癌細胞が転移する際に発現が変化すると報告されている細胞間や細胞-細胞外マトリクス間の接着に関わる各細胞接着因子(E-cadherin、N-cadherin、EpCAM、Integrins等)の発現に与える影響について検討を行った。細胞内Cl-濃度を低下させたところ、上皮細胞の細胞外マトリクスへの接着に関わっているE-cadherinやIntegrinα2、Integrinβ1といった細胞接着分子の発現が有意に低下した。また、細胞接着だけでなく癌細胞の増殖シグナル伝達にも関わっているEpCAMは、発現量の変化は認められなかったが、増殖を亢進する活性化(断片化)が低Cl-濃度環境下では認められなくなった。細胞の細胞外マトリクスへの接着能については、コラーゲン(type4)をコーティングしたマルチウェルプレートに対する細胞接着能の評価を行った。その結果、低Cl-濃度環境下では、コラーゲンコーティングしたプレートへの接着能が有意に低下することが明らかになった。以上の結果から、細胞内Cl-濃度変化は細胞接着分子の発現や活性化を介し細胞接着能に影響を与える可能性が示唆された。
3: やや遅れている
pCO2変化による影響について安定した測定系の確立に苦慮している。現在使用しているCl-濃度測定系では、細胞内Cl-濃度測定時にサンプルを一定のCO2環境下に安定させために必要な時間が測定群間でばらついてしまうため、測定結果が安定しないと考えられる。一方、細胞内Cl-濃度が細胞接着因子や細胞外マトリクスへの接着能に与える影響についての検討は安定した結果が得られており、順調に推移しているといえる。
今後は、pCO2変化時の細胞内Cl-濃度に与える影響の解明を目指し、Cl-濃度測定系の確立を目指す。測定環境のCO2濃度を安定させるために必要な時間のばらつきをなくすため、ガス混合装置の設定見直しや細胞培養dishなどの条件設定を再度見直し、安定した測定結果が得られるよう改良を行う。また、現在行っている蛍光顕微鏡を用いる方法に加え、短時間に多数の細胞内Cl-濃度を測定可能なCell Lab Quantaを用いた測定系の確立も平行して行い、pCO2が細胞内Cl-濃度に与える影響について検討を行う。また当初の予定通り、平成29年度では、細胞内Cl-濃度変化が細胞の運動および浸潤能に与える影響について検討する。また、癌細胞において細胞接着能や細胞運動能を制御していると考えられているSrcシグナル伝達経路への影響についても検討を行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Cellular Physiology and Biochemistry
巻: 42 ページ: 68-80
10.1.115599/0/000474717161