研究課題/領域番号 |
16K08503
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
宮崎 裕明 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30360027)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞内Cl-濃度 / 癌転移 / 細胞接着因子 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、細胞内Cl-濃度変化が癌細胞の運動および浸潤能に与える影響について検討を行った。また、癌細胞において細胞接着能や運動能を制御していると考えられているSrcシグナル伝達経路への影響についても検討を行った。また、前年度代謝活性の亢進によるpCO2変化が細胞内Cl-濃度に与える影響について安定した結果を得ることが難しかったため、新たな評価法についても検討を行った。 まずヒト大腸癌由来細胞株HT-29細胞を用いて、細胞内Cl-濃度を変化させた際の細胞遊走に与える影響をwound-healing assayにより検討した。細胞内Cl-を低Cl-培地中で強制的に低下させると、wound-healing処理後の細胞遊走能が有意に低下した。次に、細胞遊走能の制御に関わってるcSrcの活性化に与える影響について検討を行った。cSrcは自己リン酸化部位であるpY416のリン酸化によって活性化されることが知られており、細胞内Cl-がpY416のリン酸化レベルに与える影響について検討を行った。細胞内Cl-が低下すると、pY416のリン酸化レベルは有意に減少していた。一方、cSrcの細胞増殖に対するシグナルカスケードの下流分子であるERKとSTAT-3についても検討を行った。ERKのリン酸化は細胞内Cl-濃度が減少しても変化しなかった。しかし、cSrcの下流分子で細胞増殖に関与するSTAT-3のリン酸化は有意に減少していた。従って、細胞内Cl-はSrcキナーゼの活性を制御し、Srcシグナルカスケードを介して細胞増殖や細胞接着に影響を与えている可能性が強く示唆された。 以上の結果から、細胞内Cl-は細胞増殖や細胞接着など癌細胞の生理的機能に対する重要な制御因子の一つであることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、細胞内Cl-濃度変化が癌細胞の運動および浸潤能に与える影響および細胞接着能や運動能を制御していると考えられているSrcシグナル伝達経路への影響についても検討を行い、概ね当初の予定通りに研究を進めることが出来た。 一方、前年度からの継続事項であったpCO2が細胞内Cl-に与える影響については継続して検討を行っている。また、細胞の代謝活性を亢進させ、細胞内のCO2発生量を上昇させた際に細胞内Cl-濃度が変化するか確認するという新たな評価方法についての立案を行い、来年度に向けてその実施を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「癌細胞のクロライドシフト」の形成に必要なanion exchanger(AE )やcarbonic anhydrase(CA)をコードする遺伝子配列に変異を加え、それらが機能しないAE-CA変異HT-29細胞を作製する。Human anion exchanger 1(AE1)およびhuman carbonic anhydrase(Ⅰ~Ⅲ)のgRNAを作製し、 CRISPR-CAS9法によりそれぞれの遺伝子のknockout細胞株を作製する。HT-29細胞の野生株とAE-CA変異HT-29細胞株を用い、異なるpCO2環境下における細胞運動能測定し、野生細胞株とAE-CA変異HT-29細胞株の結果を比較することでpCO2が細胞の運動能に与える影響について検討する。また、チャンバーをコラーゲンtype Ⅳによりコーティングすることで、pCO2変化が細胞接着に与える影響に付いても検討を行い「癌細胞のクロライドシフト」に対するそれぞれの関与を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年4月より摂南大学に異動するため、その準備等により2018年2月末から3月末まで研究に従事することが不可能であったため、本来予定していた金額よりも使用額が減少した。次年度に繰り越した研究費に関しては、本来2017年度末に実施する予定であった研究を次年度行う予定としており、2018年度において使用予定である。
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