研究課題/領域番号 |
16K08506
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
黒田 有希子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70455343)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 骨形成 / 細胞間相互作用 / 糖鎖修飾 / 破骨細胞 / 骨吸収窩 |
研究実績の概要 |
骨形態形成機構を理解する上で骨形成と骨吸収の相互作用を制御する分子メカニズムを明らかにすることは重要な課題である。本研究では破骨細胞が形成した骨吸収窩に豊富に存在する糖タンパク質の中でも、マトリックスプロテアーゼMMP-9に着目し、「糖鎖修飾型MMP-9が骨芽細胞に骨形成部位を認識させる役割を果たしている」可能性について検証することを目的としている。 申請者はこれまでに、破骨細胞から分泌され、骨吸収窩に留まる糖タンパク質として、シアル酸修飾を受けたマトリックスプロテアーゼMMP-9を同定した。骨片上で破骨細胞を培養することで形成した骨吸収窩では、全ての吸収窩内にシアル酸修飾を受けたMMP-9が存在していたのに対し、マウス耳小骨の内軟骨性骨化進行過程では、軟骨が骨に置き換わる血管侵入部位ではシアル酸修飾されていないMMP-9が、骨基質上に存在する破骨細胞内ではシアル酸修飾を受けたMMP-9が発現していることが分かった。以上の結果から、シアル酸修飾は破骨細胞が骨吸収窩に分泌するMMP-9の特徴であることが示唆された。さらに興味深いことに、シアル酸修飾されていないMMP-9が存在する部位へ侵入した血管は、内腔を拡げると、その後は周囲で骨芽細胞の分化を誘導することが分かった。血管内腔を広げる際には血管周囲に破骨細胞が出現し、シアル酸修飾型MMP-9を分泌することから、シアル酸修飾型MMP-9が存在する付近で骨芽細胞の分化誘導が促されることが示された。また、耳小骨の骨芽細胞は一般的な骨芽細胞よりも石灰化能が高い特殊な骨芽細胞であることも明らかとなった。耳小骨は一度石灰化してしまうと破骨細胞による代謝があまり見られないことから、一般的な骨芽細胞と石灰化能の高い骨芽細胞の違いを生み出す機構にも破骨細胞から分泌されたシアル酸修飾型MMP-9が寄与している可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス耳小骨の組織切片の解析から、シアル酸修飾型MMP-9が存在する付近で骨芽細胞の分化誘導が促されることが示された。しかし、耳小骨の骨芽細胞は一般的な骨芽細胞よりも石灰化能が高い特殊な骨芽細胞であることも明らかとなったため、研究計画当初に骨形成性吸収窩における骨芽細胞動態観察系に用いようとしていた骨芽細胞様培養株MC3T3-E1の見直しをすることにした。本研究の目的に合う実験材料を揃えるため、耳小骨の骨芽細胞の性質を明らかにすることを最優先課題として研究に取り組んだため、研究が当初の計画通りには進んでいない。しかしながら、耳小骨の骨芽細胞の特徴が明らかになりつつある。耳小骨の骨芽細胞でも、一般的な骨芽細胞マーカーであるCol1a1やOsterixの発現は一過性に上がるものの高い石灰化能を示す分化後期になると下がること、成熟骨芽細胞マーカーであるBglapの発現は常に高いことが分かった。また、マウス間葉系幹細胞株 C3H10T1/2細胞を用いて耳小骨の骨芽細胞の特徴を持った骨芽細胞へ分化誘導する系を確立した。今後はMC3T3-E1ではなく、C3H10T1/2細胞を用いて「骨形成性吸収窩における糖鎖修飾型MMP-9の骨芽細胞に対する役割」を調べる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究遂行過程で発見した新しい骨芽細胞の性質がほぼ明らかになり、その骨芽細胞への分化誘導方法をマウス間葉系幹細胞株 C3H10T1/2細胞を用いて確立することができた。今後はC3H10T1/2細胞を用いて骨形成性吸収窩における骨芽細胞動態観察を行っていく予定である。また、これまでの実験結果から、マウスツチ骨の内軟骨性骨化進行過程では、軟骨・骨接合部に存在するMMP-9と破骨細胞由来のMMP-9でシアル酸修飾の有無がはっきりと分かれていることが示されたため、生体内におけるMMP-9の糖鎖修飾の役割を明らかにするための実験ではマウスツチ骨を中心に解析を行なうこととした。さらに、破骨細胞と骨芽細胞が常に共存している長管骨内腔では一般的な骨芽細胞が存在しているのに対し、破骨細胞による代謝がほとんどない耳小骨では石灰化能の高い骨芽細胞が存在している。このことから、糖鎖修飾型と非修飾型MMP-9のどちらかが存在する骨吸収窩上で分化させた骨芽細胞の性質を調べ、糖鎖修飾型MMP-9の骨芽細胞分化誘導への関与を検討したいと考えている。
|