研究課題
内皮細胞のモデルとしてヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて、G蛋白活性調節因子Activator of G-protein Signaling 8 (AGS8)が血管形成を促す血管内皮増殖因子(Vascular endothelial growth factor 、VEGF)シグナルへ与える影響を検討した。HUVECのAGS8発現 をsiRNAによりノックダウンしたところ、AGS8 siRNAはcontrol siRNAに比べAGS8mRNAの発現を13%まで低下させた。HUVECをMatrigel上で培養し、VEGFで刺激して管腔形成をさせた。形成された管腔長を画像解析したところAGS8ノックダウンは管腔形成を対照群の30%まで低下させた。さらに、VEGFによる細胞増殖をMTT解析、細胞遊走能をボイデンチャンバー法に検討したところ、AGS8ノックダウンはそれぞれをcontrol siRNA群に比し33.3%、および36.9%に抑制した。次にVEGFR2受容体の細胞内分布を検討したところ、蛍光免疫染色によりVRGFR2受容体がAGS8ノックダウンにより細胞内に蓄積すること、flow cytometry解析によりAGS8ノックダウン後、細胞膜表面のVRGFR2受容体が減少することが明らかになった。一方、AGS8ノックダウンはwhole cellレベルでのVEGFR2受容体の発現には影響を与えなかった。さらに、western blotにより、VEGFシグナルを検討したところ、AGS8ノックダウンによりVEGFによるVEGFR2、ERK1/2、p38/MAPKのリン酸化が抑制されることが明らかとなった。興味深いことに、AGS8ノックダウンは上皮成長因子シグナルには影響を与えなかった。AGS8siRNAの一部効果は培養脈絡膜血管内皮細胞でも確認することができた。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度当初に予定した培養血管内皮細胞を用いて、AGS8が血管新生に与える影響を検討するという計画はおおむね実行することができた。当初の仮説どおり、AGS8は血管新生シグナルに関与することが示された。特に、AGS8は血管内皮増殖因子シグナル特異的に関与する可能性を見いだしたのは今期の成果と考える。HUVEC以外の培養内皮細胞での検討は、やや遅れているが既に検討を開始しており、来期に報告すること予定している。
1.AGS8がVEGFシグナルを制御することをHUVEC以外の培養内皮細胞で検討する。HUVECで得られた結果が、血管内皮細胞一般に見られる現象か、ヒト臍帯動脈内皮細胞(Human Aortic Endothelial Cells、HUAEC)および脈絡膜血管内皮細胞を対照として検討を行う。2.VEGF受容体とAGS8の蛋白複合体を確認する:AGS8全長、あるいはGβγ相互作用部位等のAGS8各領域をタグ付蛋白として、VEGF受容体と共にCOS7あるいはHEK293細胞へ発現させ、免疫沈降によりAGS8-VEGF受容体複合体の検出を行う。3.AGS8-Gβγ複合体形成阻害による血管形成シグナル制御:AGS8はG蛋白活性調節因子として同定され、G蛋白βγサブユニットと会合しシグナルを形成する。AGS8-Gβγ複合体が血管新生に必要なのか、複合体形成を阻害して検討する。申請者はAGS8のGβγ結合領域のアミノ酸配列をもとにAGS8-Gβγの相互作用を阻害するペプチド(AGS8ペプチド)を作製し、細胞内で機能することを示している(Sato M et al. PLoS One 2014:9:e91980)。AGS8シグナルを遮断する合成ペプチドを細胞内に導入し、血管形成阻害作用を検討する。
本年度は研究実績に記載したとおり実験結果を比較的順調に得ることができ、細胞購入および培養に要する費用が軽減した。また、AGS8siRNA合成に要する費用も当初予定より軽減したため次年度使用額が生じた。
次年度へ繰り越した助成金は平成29年度分と合わせて、他の内皮細胞の購入と培養に要する費用に充てる予定である。平成29年度に当初から計画されていた助成金は試薬購入の他、研究推進に必要なパートタイム研究補助員の謝金として使用する予定である。
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