研究課題/領域番号 |
16K08509
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
柳 圭子 (石原圭子) 久留米大学, 医学部, 准教授 (70265990)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 内向き整流性カリウム電流 / カリウムイオン / 膜電位依存性 |
研究実績の概要 |
心臓ポンプ機能を担う心室筋の深い静止膜電位(約-90mV)を決めるのは強い内向き整流性カリウムチャネル(Kir2)である。Kir2チャネルは細胞内外のカリウムイオン(K+)濃度比で決まるK+の平衡電位(EK)付近で開口しており、脱分極によって閉じる性質を有する(強い内向き整流性)。EKに近い深い静止膜電位には、心筋組織を興奮が伝播する際に発生する電位依存性ナトリウム電流を増大させる働きがあり、興奮の伝播速度を速めて心筋組織全体の同期した収縮を可能にして、心臓内圧を効果的に上昇させる。さらに脱分極によるKir2チャネルの閉鎖は、心筋活動電位の長い持続時間をつくり、これは心臓の収縮と弛緩のリズムをつくるのに不可欠な要素である。 この内向き整流性は電位依存性チャネルの様な膜電位センサー構造を介するのでは無く、不透過の細胞内陽イオン(ポリアミン)による電位依存性ブロックによって引き起こされるが、その電位依存性は細胞外K+濃度が変化するとEKと共に移動することが知られている。これは心筋の静止膜電位の制御のみならず、本チャネルが発現する多くの細胞組織において生理学的に重要な性質であるが、これまでの先行研究において細胞内K+濃度との関係は十分に解明されておらず、この現象の詳細なメカニズムは未だ不明である。今年度は、内向き整流性の無いKir2チャネルの実験から、先行研究において細胞内K+濃度を変化させても内向き整流性の電位依存性が変化しないとされてきたのは、K+を置換する陽イオンの効果がオーバーラップしているためであることが明らかとなった。細胞内ポリアミンによる膜電位依存性ブロックが真にK+の電気化学的ポテンシャル勾配に依存することが明確になり、同時に、細胞内のK+はポリアミンによるブロックと競合する作用もあることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強い内向き整流性K+チャネルの外向き電流抑制にみられる膜電位依存性が、細胞外K+濃度だけでなく、細胞内K+濃度を変化させた場合においても、K+の平衡電位と膜電位との差に依存することを明確に示せた。これまでの先行研究において、強い内向き整流性K+チャネルの外向き電流抑制の膜電位依存性が、細胞内K+濃度を変化させた場合には移動しないとされてきた理由も明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は最終年度であったが、事業期間を1年延長し、強い内向き整流性K+チャネルの膜電位依存性が細胞外K+濃度の変化によって移動するメカニズムについて、細胞内陽イオン種との詳細な関係について電気生理学的な実験を追加し、これまでの成果を論文として投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、内向き整流性カリウムチャネルのK+透過が細胞外K+濃度に依存するメカニズムに関する論文の執筆投稿と、本事業の主題である同チャネルの開閉機構の膜電位依存性が細胞外K+濃度に依存して移動するメカニズムについての実験データの解析に時間を費やしたため、試薬やプラスチック容器の購入に要する物品費が減少した。次年度は事業期間を延長して追加実験と論文投稿を行う予定であり、これに見込まれる物品費と論文掲載料を繰り越している。
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