Kir2チャネル電流はK+の平衡電位(EK)付近の電位域では流れるが、膜が大きく脱分極するとその外向き電流はほぼ完全に抑制される(強い内向き整流性)。この特徴的な電流―電圧関係は細胞外のK+濃度([K+])が変化すると電位軸上を正確にEKの変化分だけ移動し、あたかも内向き整流性がK+に対する駆動力(K+の流れ)によって生じるかのごとく振舞う。これまで長い間、この性質は脱分極にともなって細胞内からチャネル内に進入する不透過の陽イオン(ブロッカー)と細胞外から選択的にチャネル内に進入するK+がチャネル内で競合するために細胞外[K+]の増加/減少がブロックの減少/増加をまねくというスキームで説明されてきた(細胞外K+によるKnock-off機構)。しかし今日では2~4価の多様な細胞内陽イオン(種々のポリアミンやMg2+)によってブロックが生じることが明らかになり、それらのブロックの電位依存性が細胞外から進入する一価陽イオンのK+との競合によってEKに依存して変化する必然性を説明するのは難しい。本研究ではこれまでの先行研究では十分に検討されて来なかった内向き整流性(ブロック)の電位依存性と細胞内K+(陽イオン)濃度との関係を詳細に検討してきた。今年度はさらに実験を追加し、ブロックは細胞内[K+]が変化した際にも正確にEKに連動し得るという確証を得た。この結果から、膜電位で駆動されるポリアミン・ブロックが細胞外から進入するK+との競合(knock-off)によって制御されるというスキームでは不十分であり、細胞内からチャネルに進入する陽イオン(主にK+)によって不透過の陽イオンが押し込まれるknock-onタイプの機構でブロックが駆動されるか、もしくはブロックが細胞内の陽イオン(主にK+)によって安定化されるlock-in機構を考える必要性が示唆された。
|