研究課題/領域番号 |
16K08510
|
研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
岡田 俊昭 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 特任准教授 (00373283)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | anion channel / Maxi-Cl / 分子同定 |
研究実績の概要 |
Maxi-Cl(マキシアニオンチャネル)は200-500pS の大きなシングルチャネルコンダクタンスとlinear でsymmetrical なI/V関係を特徴とするアニオンチャネルである。また様々な生理学的または病態的局面においてチャネルポアを通して細胞外へのATP 放出をおこなうATP 放出性チャネルとしても知られるが、その分子実体は不確定な状態が続いていた。我々は最近、マウスC127細胞においてMaxi-Cl 電流の発生やそれに伴うATP 放出に重要だと考えられる分子、MAC-1=SLCO2A1を新規に同定した。本研究は同定された分子がMaxi-Clチャネルのポアを構成する成分であるか、それとも制御因子であるかを明らかにすることを主目的としている。また、これまでMaxi電流の存在が報告されている様々な細胞においてもSLCO2A1がそれらの電流の発生に関わっているか、つまりSLCO2A1の発現とMaxi電流の発現の間に普遍性が存在するかを示すことも目的としている。 29年度はSLCO2A1の変異分子の作成と、電気生理学的解析を集中的に行った。結果として、SLCO2A1-K613G分子では通常アニオンに対して高い選択性を示すMaxi-Clの性状が変化し、カチオンに選択性を示すようになることを見出した。SLCO2A1アミノ酸点変異によってイオンの選択性が変わったことから、SLCO2A1分子がポア構成因子であることを強く示すデータが得られたと考える。この結果の一部は、他のデータと併せて29年度に論文(The EMBO J.)として発表した。また、29年度日本生理学会において関連する内容でポスター発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々が様々なスクリーニングの結果同定したSLCO2A1はプロスタグランジントランスポータ(PGT)として既に知られており、トランスポータ機能を阻害するアミノ酸点変異が報告されている。また、肥厚性皮膚骨膜症の原因遺伝子として報告されている。29年度は2種の病因性点変異SLCO2A1を作成し、これらを内在性のMaxi-Cl 電流を持たないHEK293T細胞に導入して電気生理学的解析を行ったところ、典型的なMaxi-Cl 電流を発生させない、non-functionalな変異分子であることが示された。一方で、トランスポータ機能を阻害するアミノ酸点変異を同様に発現させ解析したところ、K613Gミュータントではイオンの選択性が変化することが示された。Maxi-Clチャネルは通常、アニオンに高い選択性を示しカチオンは殆ど通さない。しかし、K613Gミュータントではカチオン透過性を示し、むしろカチオン選択性となった。アミノ酸点変異によってイオンの透過性が変わったという事実は、この分子がチャネルのポアを構成していることを強く示している。現在、K613変異体やその近傍の点変異体を、substituted cysteine accessibility method(SCAM 法)を含む解析によりさらに検証を続けているが、この課題の主目的「Maxi-Clチャネルのポアを構成する成分であるか否かを示す」に関しては一定の成果を出したと考える。 一方で、SLCO2A1が多様な細胞でMaxi-Clチャネルのポアを構成する成分であるか否かについては、現在C127以外の細胞株を用いて実験を行っているが、まだ確かなデータが得られておらず進捗が遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
上記のように、この課題の主目的「Maxi-Clチャネルのポアを構成する成分であるか否かを示す」に関しては一定の成果を出したと考えるが、さらにこの結果をサポートするデータを得るためにSLCO2A1変異分子の作成と解析は今後も続けて行う。特に今回、イオンの選択性に関与することが示されたK613に対するsubstituted cysteine accessibility method(SCAM 法)を用いた解析を行う。またK613近傍の電荷アミノ酸点変異体に関してもK613と同様の解析を行い、またK613との2重変異体の解析も行いたいと考える。 一方で、SLCO2A1が多様な細胞でMaxi-Clチャネルのポアを構成する成分であるか否かを示す実験は進捗が遅れているので急がなければいけない。予定ではマウスL929細胞などを用いてSLCO2A1ノックアウト細胞系列の作成を考えていたが、まだうまくいっていない。そこで、まずsiRNAによるSLCO2A1のノックダウンを試みている。そのような細胞を電気生理学的手法で解析し、SLCO2A1分子がMaxi-Cl 電流の発生に関与することが示された場合には、可能であればノックアウト細胞の作成を試みる。siRNAによるノックダウンの実験は複数の細胞種を用いて行うことを予定する。これにより様々な細胞においてSLCO2A1がMaxi-Clチャネルの分子実体として機能しているか否かを検討する。 なお、平成30年度は研究計画の最終年度に当たるので、論文の作成等成果の発表にも努めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
この課題は外国人研究員に研究協力者として協力してもらっているが、平成29年度は彼らの日本滞在期間が予定していたよりも短く、そのため消耗品の使用が減少するなどしたために予定よりも支出が減少し、次年度使用額が生じた。生じた差額については、多くは平成30年度の物品費に充てる。また論文の出版費などに充てることも考えたい。
|
備考 |
2番目のタイトルは正確には「有機アニオントランスポータSLCO2A1はマキシアニオンチャネルMaxi-Clのコアコンポーネントであり、心臓での虚血-再灌流時のATP放出に関与する」
|