研究課題/領域番号 |
16K08512
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
立田 大輔 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (20442569)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リン酸化 / キノフラシン感受性 / 大量培養 |
研究実績の概要 |
(平成28年度の成果の具体的内容)我々がp53依存的細胞死を誘導するセル・ベースアッセイによって微生物代謝産物から見出した新規化合物、キノフラシンやコッコキノンの標的や作用機序、キノフラシンのin vivo抗腫瘍効果を明らかにする目的で以下の実験を行った。(1)ヒストンH2AXのリン酸化の状態を解析した結果、DNA障害を与えるコントロールのドキソルビシンに比べてH2AXのリン酸化シグナルは低いことが明らかとなった。(2)キノフラシン、コッコキノンの標的を明らかにするために化合物をFGビーズに結合させる検討を行った結果、キノフラシンDが最適であった。またlysateを調製するがん細胞株の検討を行った結果、p53の発現量、キノフラシンに対する感受性からヒトグリオブラストーマのLNZTA3株、ヒト前立腺がん細胞株LNCaP-CRが適していることがわかった。(3)in vivo抗腫瘍効果を明らかにするために必要なキノフラシンの大量培養の条件検討を行った結果、固体培養が適していることが明らかとなった。 (平成28年度の成果の意義)キノフラシンの標的分子探索の条件検討やキノフラシン処理による細胞内シグナルの解析の結果を明らかにし、in vivo抗腫瘍効果実験に必要ながん細胞のセレクションやキノフラシンの大量培養の条件を決定できたことにより、平成29年度以降も研究計画に沿って研究の遂行が可能となった。 (平成28年度の成果の重要性)キノフラシン処理後のヒストンH2AXのリン酸化の状態はキノフラシンの標的分子の絞り込みや同定に、キノフラシンの大量培養の条件検討の決定はin vivo抗腫瘍効果実験を平成29年度以降に可能にするための重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キノフラシンはin vitroでp53依存的細胞死を誘導する新規化合物でありその標的や作用機序、in vivo抗腫瘍効果が明らかとなっていない。平成28年度に行ったキノフラシン処理後のヒストンH2AXの変化を解析結果から、キノフラシンのDNA障害への関与の可能性が低くなった。直接的なキノフラシンの標的分子の同定はまだこれからであるが、標的分子の機能の絞り込みが可能となった。また標的分子の同定のために必要なFGビーズへ結合する化合物の最適化、lysateを調製するがん細胞の種類、プルダウンアッセイ以降の準備は整っており、平成29年度以降に標的分子の同定ができると考える。in vivo抗腫瘍効果実験はキノフラシンの抗がん剤のシーズとしての可能性を明らかにするために重要である。平成28年度はin vivo抗腫瘍効果実験に用いることのできるがん細胞を、in vitroにおいてキノフラシン感受性を持つがん細胞から見出せた。in vivo抗腫瘍効果実験には事前に行う急性毒性試験を含めて大量の化合物が必要である。従ってキノフラシンを大量に取得するために生産菌の大量培養と大量精製が不可欠である。平成28年度は大量培養を行うための培養条件が決定したことにより、大量のキノフラシンを取得することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の成果を元に今後の本研究の推進を以下に示す。(1)キノフラシン処理ではDNA障害のマーカーであるH2AXのリン酸化の大きな変化は見られなかったが、キノフラシンの構造に含まれるアンスラキノン骨格をもつ化合物はトポイソメラーゼの活性を抑制するので、in vitroでキノフラシンがトポイソメラーゼの活性を有するか解析する。(2)キノフラシンの標的を見出すためにFGビーズへキノフラシンDを結合させて、LNZTA3細胞やLNCaP-CR細胞から調製したlysateと細胞を混合しプルダウンアッセイを行う。その後に銀染色を行いp53の発現特異的にキノフラシンに結合するバンドを切り出しLC-MSやTOF-MS解析を行う。標的候補分子の同定が困難な場合にはキノフラシンD以外の化合物をFGビーズへ結合する。また先端モデル動物支援プラットホームの分子プロファイリング支援活動よりRNA干渉キットを入手したので、キノフラシン処理した細胞にRNA干渉キットを添加して無処理と比較する。(3)同定した標的分子に対して特異的なsiRNAでノックダウン、過剰発現細胞株を作成してp53の細胞死誘導経路に関わる遺伝子の発現やタンパク質修飾をRT-PCRや特異的抗体で解析する。(4)in vivo抗腫瘍効果実験のために、in vitroでキノフラシンの感受性が高いLNZTA3細胞やLNCaP-CR細胞がマウスに腫瘍形成できるかを確認する。また標的分子が発現するがん細胞株を同定してin vitroでのキノフラシンの感受性、マウスでの腫瘍形成能を検討する。がん細胞単独で腫瘍形成が困難な場合には腫瘍形成が促進される可能性がある間質細胞を同時に移植する。(5)キノフラシンの培養は個体培養が最も産生量が高いことが明らかとなったので、大量培養の培地成分、日数、容器等の条件を検討した後に大量培養、大量精製へと進めていく。
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