研究課題/領域番号 |
16K08518
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
守屋 孝洋 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (80298207)
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研究分担者 |
小林 正樹 東北工業大学, 工学部, 教授 (90332981)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 加齢 / 体内時計 / 視交叉上核 |
研究実績の概要 |
加齢は体内時計の働きに影響を与え、睡眠の断片化やリズム振幅の低下、リズム周期の変化等をもたらすことが知られているが、その機序は完全には明らかになっていない。一方、β2ミクログロブリンは主要組織適合遺伝子複合体MHC Iの構成因子であるが、認知機能等の脳機能に対してプロエイジング因子として働いていることが明らかになった。そこで本研究では、β2ミクログロブリンが視床下部・視交叉上核に存在する中枢時計の機能を変化させ、体内時計の働きにおける加齢変化に寄与している可能性について検討し、その作用機序を明らかにすることを目的とした。平成28年度(1年目)の研究において、β2ミクログロブリン添加は若齢マウス視交叉上核の時計遺伝子の発現振動の周期長を延長し、時計ニューロン間の脱同期をもたらしていることや、加齢マウスの視交叉上核においてβ2ミクログロブリンのタンパク質レベルが上昇していることが明らかになった。また、平成29年度(2年目)の研究によって、比較的高用量のβ2ミクログロブリンの脳室内投与が若齢マウスの行動リズムの周期長を延長させるとともに、行動の断片化を引き起こすなど、加齢マウスの類似パターンを示すことを明らかにした。さらに、Tap1のノックダウンがβ2ミクログロブリンによるリズム周期の延長作用を抑制することが観察され、β2ミクログロブリンが細胞内に取りこまれた後にMHC Iと会合し、Tap1依存的に細胞膜表面に輸送されることが、リズム周期延長作用に必要であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の研究において、β2ミクログロブリン投与は中枢時計の視交叉上核のin vitroリズム発振周期を変化させるが、マウス行動のin vivoリズムには影響しなかった。そこで、in vivoでの投与量を詳細に検討したところ、比較的高用量のβ2ミクログロブリンの脳室内投与が若齢マウスの行動リズムの周期長を延長させるとともに、行動の断片化を引き起こすなど、加齢マウスの類似パターンを示すことを明らかにした。一方、β2ミクログロブリンは主要組織適合遺伝子複合体MHC Iの構成因子であり、膜貫通ドメインを有するα鎖と非共有結合で会合している。また、外来的に投与されたβ2ミクログロブリンは細胞内に取り込まれ小胞体内でMHC Iと会合し、細胞膜表面に輸送される。このMHC Iの細胞膜発現がβ2ミクログロブリンの作用に必須であるかどうかを検討するために、MHC I複合体の細胞膜輸送に必須なトランスポーターであるTap1の遺伝子ノックダウンがβ2ミクログロブリンの体内時計への作用に影響するかどうかを検討することにした。モデル細胞として、PER2::LUCノックインマウスより樹立したマウス線維芽細胞(MEF)を用いた。β2ミクログロブリン添加によるMEFの発光リズム周期の延長作用はtap1ノックダウンによりキャンセルされ、β2ミクログロブリンが細胞内に取りこまれた後にMHC Iと会合し、Tap1依存的に細胞膜表面に輸送されることが必要であることが明らかになった。このモデル細胞でのTap1ノックダウンの実験条件の検討に時間を要したため、ノックアウトマウスの解析は当該年度中に解析を終了できなかった。最後に、β2ミクログロブリン慢性投与後の若齢マウスの視交叉上核を免疫染色によって検討したところ、アルギニンバソプレシン陽性細胞の密度低下が観察された。
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今後の研究の推進方策 |
末梢循環血液中のβ2ミクログロブリンが本当に加齢に伴う体内時計の機能変化の誘発因子であるかどうかを直接的に証明するためには、β2ミクログロブリン遺伝子欠損マウスにおいて加齢に伴う体内時計機能の諸変化が見られなくなることを検討しなければならない。そこで、若齢および加齢の野生型マウスおよびβ2ミクログロブリン遺伝子欠損マウスを対象にして、輪回し行動リズムを評価する。明暗条件下14日間、その後、恒常暗条件下28日間で測定を行い、行動レベルの時間分布、明暗分布、活動開始・終了位相、リズム周期(以上、Clock Labで解析、現有設備)を解析し、β2ミクログロブリン遺伝子欠損が加齢に伴う変化に抵抗性を示すのかどうかを検討する。加齢マウスの場合、運動機能が低下し、行動リズムを十分に評価できないことも予想される。その場合には、小型温度ロガーを腹腔内に留置し、深部体温リズムで評価する。また、各時刻で脳をサンプリングし、視交叉上核における時計遺伝子の発現リズム(In situ hybridization)を野生型マウスと比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成29年度においてモデル培養細胞でのTap1ノックダウンの実験条件の検討に時間を要し、ノックアウトマウスの解析を当該年度中に終了できなかったため。 (使用計画)ノックアウトマウスのin vivo解析を平成30年度に行うと共に、当初の平成30年度中に計画していた「β2ミクログロブリン遺伝子欠損」の体内時計機能に与える影響について検討する。
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