研究課題
2型糖尿病患者では、インスリンを分泌する膵β細胞の機能のみならず細胞数も減少しており、その数は長年の病態の進展とともに進行性に減少することが知られている。一方、健常者では膵β細胞の量は一定に維持されている。この維持には膵β細胞の細胞死と細胞分裂が正確に制御されることが必須である。我々は本研究で、膵β細胞量の維持機構について、膵島再生マウスと膵島移植マウスを用いて解析している。平成28年度には膵島再生マウスの膵β細胞の増殖を定量解析した。その結果、膵β細胞の細胞死誘導後に、膵島再生マウスでは速やかな膵β細胞の細胞増殖が誘導されるものの、処置前膵島のほぼ半分の量に達した時点で再生がほとんど停止することが明らかになった。この再生停止が膵β細胞の細胞分裂能の限界によるものかを検討するために、再生が停止した状況で、再度膵島再生の誘導を行った。すると、膵β細胞は再び細胞分裂を示すことが示された。このことから、何らかの機転で再生が制御され再生停止が生じていることが考えられた。さらに我々は、上記の「膵β細胞量を減少させるモデルマウス」とは逆に、「膵β細胞移植により膵島量を過剰に増加させたマウス」を作製し膵β細胞機能と膵β細胞量を解析した。すると、この膵島移植マウスでは内因性の膵β細胞に細胞死が誘導され、細胞数が激減することが明らかになった。この細胞死の機序を解析したところ、細胞外のグルコース濃度の低下に加え、近傍の膵β細胞由来の液性因子の減少が原因であることと見いだした。特に、膵β細胞でのインスリンシグナルを阻害すると著明な細胞死が誘導されることが示された。インスリンを分泌する膵β細胞でのインスリンシグナルの生理的意義については、現在一定の見解がなく、平成29年度以降にその詳細な機序の解明を目指す。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、糖尿病の主要な病態である膵島量の減少と、根治的治療となり得る膵島再生の機序を解明することを目指している。平成28年度の解析で、膵島量の制御機構について多くを解明することができた。特に膵β細胞の生存維持に局所のインスリンシグナルが重要であることを明らかにすることができ、インスリンシグナルの重要性に重点を置きながら、基本的には申請書での提案通りに研究を進めて行く予定である。
平成29年以降も、本申請で提案した計画に沿って膵β細胞の増殖制御機構の解明を進めて行く予定である。特に膵β細胞前駆細胞については、再生中の膵島内での存在を可視化するための分子マーカーを絞り込む計画である。また、インスリンシグナルが膵β細胞の生存に重要であることは明らかになったものの、他の因子の関与も否定できないことから、引き続き膵β細胞由来の種々の液性因子の関与を解析する。
平成28年度の解析結果から、膵β細胞から分泌されるインスリンがパラクラインの一つとして機能し、膵β細胞自身の生存に重要な役割を果たすことが明らかになった。その結果を受け、今後は再生する膵島の再生過程に沿った再生機序の解析がより重要になる。このために、再生膵島の解剖学的な位置や再生過程を示す形態学の特性を考慮した試料収集が重要になる。そのため、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法とシングルセルqPCR解析による再生膵島の遺伝子発現解析法を立ち上げた。ただし、これらの解析には費用が掛かるため、平成28年度は膵島の再生解析の実験条件の最適化を優先し、支出を最低限に絞った。平成29年度にこれらの解析を本格化する予定である。
レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法とシングルセルqPCR解析に必要な、反応プレート、スライド、フィルム、cDNA合成試薬などの購入に充てる計画である。
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