研究課題
組織・器官レベルの日周変動である概日リズムは、行動や代謝, 体温等の生理機能を制御する生体の恒常性維持機構である。個体発生に伴い個々の細胞に形成される細胞時計が、光等の刺激によって組織・器官内で互いに同調すると、概日リズムが形成される。しかしながら、個体発生に伴う細胞時計の形成機構と同調機構については不明な点が多く存在する。これまでの研究は、哺乳動物と共通の概日リズム制御機構を有するゼブラフィッシュの行動リズムの解析系を確立し、またゼブラフィッシュ胚の細胞時計の可視化法の構築を進めてきた。本研究の目的は、これら両実験系を用いて、課題1:生体組織内で細胞時計が互いに同調する機構と、課題 2:個体発生に伴い細胞時計が形成される機構を解明することである。第1の課題については、ゲノム編集技術を用いて、これまでに報告してきた複数の細胞時計の組織内同調の候補制御因子の遺伝子改変ゼブラフィッシュを作出した。また、作出した遺伝子改変ゼブラフィッシュ稚魚の行動リズムを解析し、光依存的な行動リズム形成に異常を示す遺伝子改変個体を選定した。ゼブラフィッシュの胚や稚魚は透明度が高く、生きた個体での細胞時計の可視化に適している。そこで、第2の課題については、蛍光バイオプローブを用いて、ゼブラフィッシュ胚および稚魚の生体組織内の細胞時計を可視化する系の構築を目指した。ゼブラフィッシュにおいて松果体の細胞時計は、行動リズムの形成に主要な役割を担っている。先ず、松果体に特異的に発現する遺伝子プロモーターに細胞時計の標的DNA配列を融合させることにより、その活性が松果体特異性と細胞時計依存性を持つようにしたプロモーターを準備した。次に、このプロモーターの下流で、蛍光蛋白質を発現する蛍光バイオプローブを構築した。現在、このプローブを発現するトランスジェニック個体の作製を進めている。
2: おおむね順調に進展している
以下に記載する通り、これまでの実験を計画に従い進められているため。発生期の細胞時計の生体組織内での同調機構の解明という課題1については、細胞時計の光同調制御因子の候補として報告してきた遺伝子のノックアウトゼブラフィッシュを作製し、それらの一部の個体に行動リズムの形成異常という表現型を見出すことができている。個体発生に伴う細胞時計の形成機構の解明という課題2に関しては、発生期の細胞時計を可視化するための蛍光バイオプローブを構築をしている。また、このプローブを発現するトランスジェニック個体の作出を開始している。
課題1に関しては、表現型が観察されたノックアウト個体の細胞時計の動態を解析し、細胞時計の光同調異常の有無を検討する。課題2に関しては、構築した蛍光バイオプローブを発現するトランスジェニック個体の系統樹立を進める。樹立後は、トランスジェニック個体の細胞時計のライブイメージング解析系を確立する。
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J Recept Signal Transduct Res
巻: 137 ページ: 401-408
10.1080/10799893.2017.1298130.