研究課題
さまざまな心理的、肉体的ストレスにより生殖機能が低下することが知られている。本研究では、ストレスが性周期を制御する生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)ニューロンに与える影響を調べ、GnRHニューロンの機能低下のメカニズムを明らかにすることを目的に解析を進めている。これまでに、GnRHニューロンへの興奮性GABA入力が生殖機能の維持に重要であることを明らかにしており、ストレスによりGnRHニューロンの細胞内クロライド濃度維持機構が破綻し、GABA入力の可塑的変化が起こることが生殖機能の低下を招く可能性を検討するために、本年度はストレス負荷の方法の確立を行った。野生型マウスに50 mlの遠沈管に入れる拘束ストレス(1回45分間を1日3回)を負荷し、その後採血を行い、血中コルチコステロンの変化をラジオイムノアッセイ法により調べた。その結果、拘束ストレス負荷により血中コルチコステロンの上昇がみられ、ストレスが負荷されていることを確認できた。ストレスを負荷したマウスから膣スメアを採取し、性周期の変化を検討している。ストレス負荷によるGnRHニューロンの細胞内クロライド濃度の変化を調べるために、GnRHニューロンからloose patch recording法を用いて活動性の記録を行った。GnRHニューロンで蛍光タンパクEGFPを発現する遺伝子改変マウスを導入し、急性脳スライス標本を作成して、EGFP蛍光を指標にGnRHニューロンから記録を行った結果、GnRHニューロンの自発発火が記録され、GABAを作用させることにより発火活動の増加が認められた。今後は、ストレスを負荷したマウスの急性脳スライス標本を用いて記録を行い、ストレスによるGnRHニューロンの活動性の変化を検討していく。
2: おおむね順調に進展している
本年度はストレス負荷の方法を確立することができ、今後は、このストレス負荷マウスを用いて、GnRHニューロンの活動性の変化を検討していく。ストレス負荷による生殖機能への影響について、膣スメアを採取することによる性周期確認の方法を確立することができた。GnRHニューロンでEGFPを発現している遺伝子改変マウスを導入し、loose patch recording法により、GnRHニューロンから活動を記録する方法を確立することができた。また、ストレス負荷によりGnRHニューロンが示すカルシウムオシレーションに変化がみられるか調べるために、GnRHニューロンでカルシウムセンサーであるGCaMPを発現する遺伝子改変マウスの導入を進めている。
今後はストレス負荷によるGnRHニューロンの活動性の変化を検討し、GnRHニューロンでGABA応答の興奮/抑制を制御しているNa+-K+-2Cl-共役担体(NKCC1)およびK+-Cl-共役担体(KCC2)の発現に変化がみられるか、免疫染色法およびreal time PCR法により調べる。また、発現変化に性差、性周期に伴う差がみられるか検討する。ストレス負荷によるGABA応答の変化を引き起こす因子として、HPA軸の活性化が関与しているか調べるために、合成グルココルチコイドのデキサメタゾンを皮下注射し、ストレス負荷時と同様のGABA応答の変化がみられるか検討する。ストレス負荷によりGnRHニューロンが示すカルシウムオシレーションに変化がみられるかについて、GnRHニューロンでカルシウムセンサーであるGCaMPを発現する遺伝子改変マウスを用いて検討する。
実験に使用した遺伝子改変マウスの繁殖状況が悪く、予定より飼育マウス数が少なかったため、飼料代、ジェノタイピング試薬代の一部が次年度使用になった。
マウス飼料代、ジェノタイピング試薬代に使用予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) 備考 (1件)
Science Advances
巻: 2 ページ: e1501723
10.1126/sciadv.1501723
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 30072
10.1038/srep30072
https://www.hama-med.ac.jp/uni_education_igakubu_igaku_seiri1.html