研究課題/領域番号 |
16K08527
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
犬束 歩 自治医科大学, 医学部, 助教 (30584776)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オキシトシン神経 / 逆行性感染 / オキシトシン受容体 / Cre-DOG |
研究実績の概要 |
視床下部に局在するオキシトシン神経は、多様な脳領域に投射しており、機能的にも社会行動・摂食・ストレスといった多様な生理現象に関与している。現在、オキシトシンが社会行動に果たす役割が大きく注目を集めているが、オキシトシンのもたらす効果は生育暦や社会的文脈などの多彩な要因に修飾され、その実態が捉えづらい状況にある。本研究は、複雑な入出力を持つオキシトシン神経の個別の投射経路を選択的に活動操作し、その機能分担/機能連関を明らかにすることを目的としている。 平成28年度の研究実績としては、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた逆行性感染の達成が挙げられる。これまでも、イヌアデノウイルス(CAV)ベクターを用いた逆行性感染の実験系を立ち上げていたが、CAVベクターの作成は外部のベクターコアに依存しており新たなコンストラクトの導入には時間がかかっていた。しかし、逆行性感染するキャプシド(Tervo, 2016-Neuron)を用いてAAVベクターを精製することで、これまでに用意したコンストラクトを利用して簡便に逆行性ウイルスベクターを作成することが可能となった。特に、オキシトシン受容体が豊富に発現する前頭前皮質や扁桃体においては良好な逆行性感染効率を示しており、DREADDやオプトジェネティクスを利用した活動操作にも期待が持てる。また、論文化した実績としては、ファイバーフォトメトリーを用いた視床下部特定回路の活動記録を達成した(Inutsuka, 2016-Sci Rep)と、ノンレム睡眠時の投射経路選択的な活動操作の効果をみた(Miyamoto, 2016-Science)とが挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は、投射経路選択的な遺伝子発現を達成するための技術開発に重点を置いたが、その領域においては想定以上に研究が進展している。特にアデノ随伴ウイルスベクターでも前頭前皮質や扁桃体で高効率な逆行性感染を達成できたことは、今後の研究を進捗する上で大きな一歩である。また、オキシトシン受容体発現細胞における選択的な遺伝子発現に関しても、オキシトシン受容体発現細胞にVenusを発現する遺伝子改変動物Oxtr-Venus mouseとGFP-dependent Cre (Cre-DOG) (Tang, 2015-Nat Neurosci参照)との組み合わせが上手く機能している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降の推進方策としては、以下のような実験を計画している。 <改変型GPCRを用いた自由行動下における活動制御> 個別のオキシトシン神経投射が、どのようにして社会行動や摂食のような別々の機能を分担しているのか検討するためには、数時間にわたる行動実験の期間内において、標的とする神経回路の活動を操作できる手法が必要となる。DREADDと呼ばれる改変型GPCRは、リガンド結合部位に変異を加えることで、本来のリガンドには応答しない一方、合成リガンドであるCNOによって活性化される分子である。逆行性感染するウイルスを用いて改変型GPCRを特定の投射経路に関わる神経細胞に発現させ、そのマウスにCNOを腹腔内投与することによって、投射経路が担う行動を数時間にわたって駆動することが可能となる。Gq経路を活性化して神経細胞を興奮させるhM3Dq、およびGi経路を活性化し神経細胞を抑制するhM4Diという2種類の改変型GPCRを用いることで、神経投射経路特異的な活動操作を目指す。 <代謝量測定ケージを利用した摂食・代謝機能の解析> オキシトシン神経には摂食行動と関わりの深いAgRPニューロンからの入力が報告されている。また、オキシトシン神経の投射先には脊髄の交感神経も含まれており、エネルギー消費への関与も示唆されている。こうした摂食・代謝に対する影響を解析するため、代謝量測定ケージを利用した摂食量・飲水量・運動量・呼吸交換率の同時モニタリングを行う。 <各種行動実験を利用した社会性に係わる機能の解析> オキシトシン神経には動物あるいはヒトの社会性との関わりが多く報告されている。こうした、社会性に関わる機能を解析するため、ソーシャル・インタラクションテストや居住者-侵入者テストといった行動テストを行う。こうした行動実験に関しては、より高度な向社会行動をみせるラットを用いた実験も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の予想外の進展として、アデノ随伴ウイルスベクターでも逆行性感染を達成できたことが挙げられる。そのため、当初予定していた高額なイヌアデノウイルスベクターを海外から大量購入する必要がなくなった分、予算に余裕が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
アデノ随伴ウイルスベクターでも逆行性感染を達成できたことにより、ウイルスベクター自体を外部から購入する必要は低下した。しかしながら、作成できるウイルスベクターの拡張性が増加したことにより、実効可能となる動物実験のボリュームは増加する。次年度使用額は、実験動物の購入・維持管理に充填する。
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