研究課題
注意や意思決定を司る前部帯状回(anterior cingulate cortex:ACC)はストレスの影響を強く受ける。前年度は、ACCにおけるストレスホルモン(コルチコステロン)の作用部位の特定を試み、ストレスホルモンの受容体であるグルココルチコイド受容体(glucocorticoid receptor: GR)が存在することを明らかにした。また、ACC神経活動のオシレーションに重要なパルブアルブミン(parvalbumin: PV)陽性細胞とGRの共局在を示した。しかし、PVを発現していないが、GRを発現する細胞が多数存在し、大きさなどから興奮性のグルタミン酸作動性神経細胞であると推測された。今年度は、興奮性のグルタミン酸作動性神経細胞のマーカーを用いてGRとの共染色を行った。その結果、大部分(~90 %)のグルタミン酸作動性神経細胞にGRが存在していた。オシレーションはグルタミン酸作動性神経細胞とGABA作動性神経細胞(PV陽性細胞含む)が協調して同期活動を行うことにより生じる。この結果は、コルチコステロンがACCの神経回路に直接作用して、ACCのオシレーションを変化させることを示唆する。また、コルチコステロン投与で、ドーパミンのオシレーション増強作用が減弱するため、ドーパミン受容体のうち、D1受容体(D1DR)・D2受容体(D2DR)とGRの共染色を行った。D1DRはグルタミン酸作動性神経細胞の細胞体、および、PV陽性細胞の軸索終末に局在が確認された。D2DRはシグナルが弱いため、現在、検出感度の改善を試みている。これらの結果から、ACCにおけるストレスホルモンの作用点の詳細と、その結果生じる、ACC機能の変化の関連が初めて示唆された。今後、シナプスレベルの解析を進めることでより詳細な、ACCにおける急性ストレスの分子メカニズムが解明されることが期待できる。
2: おおむね順調に進展している
ACCの機能に重要な神経回路オシレーションを発現するために必要な細胞種(興奮性神経細胞と抑制性神経細胞の双方)にグルココルチコイド受容体が発現していることが認められ、ACCに対するストレスの作用機序解明への重要な手掛かりが得られた。
GRの染色パターンを観察すると、細胞体のみならず、細胞体の間の空間に粒状の染色が多数みられる。これは、シナプス後部構造であるスパインと考えられる。今後はGFP発現マウスなどを用いて、スパインでのGRの局在を明らかにし、同時に、コルチコステロンがスパインに与える作用についても解析していく予定である。また、GRと各種細胞マーカーの共局在の度合いや、急性ストレスによるスパイン変化を定量的に解析するために、実験操作と取得した画像のデータ解析を以下の研究協力者と共同で行うことを予定している。[研究協力者]埼玉医科大学 医学部 松永洸昂・橋本知公埼玉医科大学 保健医療学部 野口彩紀子
前年度の段階で、繰り上げ採択によって生じた次年度使用額が存在した。これにより、今年度、当初の予定よりも標識抗体などを購入したが、消化しきれずに今年度も次年度使用額が生じた。2018年度は、急性ストレスによるスパイン変化の解析の際に、実験条件が多くなるので、次年度使用額を含めて使用できるものと考えている。
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