研究課題
注意・共感・意思決定といった、高次の処理を司る前部帯状回(anterior cingulate cortex: ACC)はストレスの影響を強く受ける。ストレスに際して分泌されるストレスホルモン(げっ歯類ではコルチコステロン)の作用部位の特定を目指し、前年度までに、マウスACCにグルココルチコイド受容体(glucocorticoid receptor)がACCに存在すること、また、そのうち、興奮性のグルタミン酸作動性神経細胞と抑制性のパルブアルブミン(parvalbumin: PV)陽性細胞にGRが存在することを明らかにした。これらの細胞種はACCが機能を発現する際に観察される発振(オシレーション)現象に必須の神経回路を構成する。今年度は、上記の細胞種に加えて、主要な抑制性のGABA(ガンマアミノ酪酸)作動性神経細胞のソマトスタチン(somatostatin: SST)陽性細胞にGRが局在しているかどうかを解析した。また、各細胞種においてGRを発現する細胞の割合を数えた。その結果、グルタミン酸作動性神経細胞、PV陽性細胞、SST陽性細胞のうち、GRを発現する細胞の割合は、それぞれ91, 95%, 86%であった。現在のところ有意差はないが、例数を増やすなどしてさらに検討する予定である。特に、PV陽性細胞とSST陽性細胞はオシレーションに対する寄与のしかたが異なるので、コルチコステロンの影響の差についても今後解析していきたい。また、コルチコステロンを投与したマウスでは、ドーパミンによるオシレーションの増強作用が減弱した。これらの結果から、ACCに存在するGRにコルチコステロンが結合し、ACCの機能発現に影響を与えることが示唆される。
2: おおむね順調に進展している
ACCの機能に重要な神経オシレーションを発現するために必要な細胞種にグルココルチコイド受容体が発現していることが認められ、また、実際にコルチコステロン投与でオシレーションが変化したことから、ACCに対するストレスの作用機序う解明への重要なデータが得られたと考える。
GRの局在解析について、皮質の層による発現割合に差があるかどうかを検討する。オシレーションのパワーは表層(Ⅱ/Ⅲ層)の方が深層(Ⅴ/Ⅵ層)よりも大きく、層によってストレスの影響が異なることが予想される。また、主要な神経細胞だけではなく、グリア細胞にも局在があるかどうかを検討する。また、シナプス解析の手段としてスパインでのGRの局在を明らかにし、同時にコルチコステロン投与でどのような影響が出るか解析する予定である。実験操作、取得した画像解析について、以下の研究協力者と共同で行うことを予定している。[研究協力者]埼玉医科大学 保健医療学部 川田真衣
標識抗体などを中心に消耗品を購入したが、染色の条件検討などが予定していたよりも早く最適化されたため、消費量が予定よりも少なくて済み、次年度使用額が生じた。2019年度はコルチコステロン投与群など使用動物が増えるので、使用額は増加するものと予想される。
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