研究課題/領域番号 |
16K08534
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
河尾 直之 近畿大学, 医学部, 講師 (70388510)
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研究分担者 |
梶 博史 近畿大学, 医学部, 教授 (90346255)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 骨粗鬆症 / サルコペニア / メカニカルストレス / 筋骨連携 / 肥満 / アイリシン |
研究実績の概要 |
超高齢社会を迎えた本邦において、ロコモティブシンドロームの原因である骨粗鬆症や筋量と筋機能の両方が低下するサルコペニアへの対応が臨床的に喫緊の問題となっている。近年、骨粗鬆症とサルコペニアの病態が、筋内・骨髄内を含む脂肪組織の増加によって悪化することが示唆されており、その機序の解明が強く望まれている。また、筋と骨のネットワーク機構が注目されてきたが、その生理的・病態生理的役割は未だ不明である。本研究課題では、脂肪組織が筋組織と骨代謝におよぼす影響とその機序について、メカニカルストレスによって誘導される筋と骨のネットワーク機構の視点から明らかにすることを目的とする。高脂肪食を8週間給餌させて肥満を誘導したマウスと通常食を給餌させたコントロールマウスを用いて、3週間の尾部懸垂による後肢の非荷重による筋量と骨量の減少に関連する筋由来の体液性因子を探索した。その結果、非荷重によって後肢の骨格筋で発現量が減少し、骨密度と有意に正の相関関係を示す因子としてアイリシンを見出した。また、後肢骨格筋におけるアイリシン遺伝子発現量は、破骨細胞形成に重要な因子であるRANKLの脛骨における遺伝子発現量と負の相関関係を示した。さらに、坐骨神経切断による後肢不動モデルマウスにおいても同様の結果が得られた。また、マウス骨髄細胞での検討より、アイリシンは骨髄細胞において破骨細胞形成を抑制したことから、非荷重による骨量減少に骨格筋でのアイリシン産生低下の関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は、脂肪組織が筋組織と骨代謝におよぼす影響とその機序について、メカニカルストレスによって誘導される筋と骨のネットワーク機構の視点から明らかにすることである。本年度は、メカニカルストレスによって誘導される筋と骨のネットワーク機構に寄与する因子としてアイリシンを見出し、その作用機序としてアイリシンは破骨細胞形成を抑制することを明らかにした。本成果は既に海外の学術雑誌に掲載されている(Kawao N, Moritake A, Tatsumi K, Kaji H. Roles of Irisin in the Linkage from Muscle to Bone During Mechanical Unloading in Mice. Calcif Tissue Int. 2018. doi: 10.1007/s00223-018-0387-3.)。さらに、肥満は後肢への再負荷による筋量、骨量の回復を促進させることを既に見出しており、現在は、筋量と骨量の回復に寄与することが期待されるアディポカインについて、筋と骨の組織間ネットワークに及ぼす影響を中心にその作用機序の検討を進めている。従って、本研究課題は当初の研究計画の通りおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見に基づいて、当初の研究計画に沿って以下の方策によって研究を推進する。後肢への免荷・再負荷した時の、脂肪、骨、筋におけるアディポカイン (レプチン、アディポネクチン、TNF-αなど) の発現量を分子生物学的手法を用いて検討し、メカニカルストレスに関連する重要なアディポカインを見出す。次に、脂肪細胞が筋および骨に及ぼす影響を明らかにするため、マウス脂肪組織由来間質細胞あるいはマウス線維芽細胞株3T3-L1細胞から分化誘導させた脂肪細胞を用いて、筋芽細胞あるいは骨芽細胞と共に培養し、筋分化および骨分化能におよぼす脂肪細胞の影響を検討する。さらに、メカニカルストレスとして剪断ストレスを与えた脂肪細胞の培地を採取して、筋芽細胞、骨芽細胞あるいは骨髄細胞における、筋分化、骨分化・石灰化、破骨細胞形成に及ぼす影響を検討する。これらの検討で関与が示唆されたアディポカインについて、siRNA、強制発現、リコンビナントタンパク、中和抗体、受容体阻害薬の効果を細胞培養系で検討すると共に、その作用機序を検討する。さらに、同定されたアディポカインについて、メカニカルストレスによって誘導される筋骨ネットワーク因子であるアイリシンと他の筋骨ネットワーク因子の発現に及ぼす影響を検討する。
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