研究課題
超高齢化社会を迎えた本邦において、骨粗鬆症や筋量と筋機能の両方が低下するサルコペニアへの対応が臨床的に喫緊の問題となっている。近年、骨粗鬆症とサルコペニアの病態が、筋内・骨髄内を含む脂肪組織の増加によって悪化することが示唆されており、その機序の解明が強く望まれている。また、筋と骨の相互作用機構が注目されてきたが、その生理的・病態生理的役割は未だ不明である。今回の研究では、脂肪組織が筋組織と骨代謝におよぼす影響とその機序について、メカニカルストレスによって誘導される筋と骨のネットワーク機構の視点から明らかにすることを目的とする。これまでに、後肢のメカニカルストレス免除によって減少した筋量と骨量の再荷重による回復に及ぼす肥満の影響について検討し、肥満は再負荷による下腿筋量、腓腹筋重量、筋力、脛骨海綿骨密度の回復を促進することを見出している。今年度は、腓腹筋、ヒラメ筋、皮下脂肪、内臓脂肪において、肥満による筋量と骨量の回復に寄与する体液性因子について検討した。内臓脂肪および皮下脂肪におけるアディポカイン発現解析において、再荷重後の肥満マウスでは対照群と比較してレプチン、MCP-1の発現量に有意な増加が見られた。実験に用いたマウス検体での単相関分析の結果、骨密度回復率とレプチン発現量との間でのみ有意な正相関を示した。さらに、再荷重後の肥満マウスでは、血中レプチン濃度の有意な増加がみられ、血中レプチン濃度は、脛骨海綿骨密度、全身筋量、握力の回復率と有意な正相関を示した。一方、ヒラメ筋および腓腹筋での筋と骨のネットワークに関連する因子の発現レベルと骨密度との間には有意な相関はなかった。以上より、肥満は非荷重によって減少した骨量、筋力、筋量の再荷重による回復を促進させることが示唆された。さらに、アディポカインとしてのレプチンが肥満による筋と骨の回復促進に寄与するものと考えられた。
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