研究課題
下垂体後葉ホルモンであるオキシトシン(OT)は、これまで子宮収縮および射乳反射を引き起こすホルモンとして知られている。近年、社会行動や摂食行動を調節する因子としても注目され、記憶および情動などの高次脳機能の修飾や摂食に関与することが示唆されている。最近、肥満および自閉症スペクトラム症患者に対し、OTの経鼻投与によりそれらの症状が改善されることが報告された(Maejima et al., 2015; Watanabe et al., 2015)。嗅覚情報は、鼻粘膜上皮に存在する嗅覚受容細胞からの入力により嗅球および脳内へ伝達される。しかし、嗅球OT細胞の生理学的性質および情報伝達機構の詳細は明らかになっていない。本研究では、嗅球におけるOTの生理学的役割および情報伝達機構の特性を、摂食抑制モデルにおいて分子生物学的および電気生理学的手法を用いて明らかにすることを目的とする。初年度(平成28年度)は、摂食抑制モデルにおける嗅球を含めた中枢内OTの動態変化を検討するために、Wistar系成熟雄ラットおよびOT-mRFP1トランスジェニックラットにシスプラチンを腹腔内投与し、シスプラチン誘発性摂食抑制モデルを作成し、脳内のOTの動態変化の検討を行った。具体的には、免疫組織化学的染色法によって、脳内のFosタンパクの発現およびmRFP1蛍光輝度の変化を調べた。シスプラチン投与により、OT産生部位である視床下部視索上核および室傍核、さらにOT細胞の投射先である延髄孤束核にFosタンパクの著明な発現が認められ、これらの発現はOT受容体拮抗薬の投与により有意に減弱した。OT-mRFP1トランスジェニックラットにおいては、シスプラチン投与により、視床下部視索上核および室傍核、延髄孤束核における蛍光輝度の増加が見られた。今後、嗅球OT細胞における変化を検討する予定である。
3: やや遅れている
シスプラチン誘発性摂食抑制モデルラットにおいて、オキシトシンの関与が示唆された。ラット嗅球におけるオキシトシン細胞の同定がまだできていない。シスプラチン誘発による摂食抑制作用は比較的小さいので、もう少し強い摂食抑制モデル(例えばコレシストキニン末梢投与誘発性摂食抑制モデル)によるラット嗅球および脳内におけるオキシトシンとの関係を検討し、嗅球におけるバゾプレッシンの生物学的役割および情報伝達機構の特性を調べる予定である。
引き続き、Wistar系成熟雄ラットおよびオキシトシン-mRFP1トランスジェニックラットを用いて、摂食抑制モデルにおけるオキシトシンの脳内および嗅球内の変化を検討する。具体的には、Wistar系成熟雄ラットに対し、(1)コレシストキニン末梢投与誘発性摂食抑制モデル(2)拘束ストレス誘発性摂食抑制モデル(3)アポモルフィン誘発性摂食抑制モデルなどを作成し、灌流固定後、脳を摘出し、固定後、抗Fosタンパク抗体もしくは抗ICER抗体を用いて、嗅球のFosタンパクおよびICERタンパクの発現部位(活性化部位)を免疫組織化学的染色法により探索し、比較および検討を行う。また、オキシトシン-mRFP1トランスジェニックラットを用いて、同様に摂食抑制モデルラットを作成し、脳内および嗅球内のmRFP1蛍光輝度の変化を比較および検討を行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件)
The journal of physiological sciences : JPS
巻: - ページ: -
10.1007/s12576-016-0517-5.
Neuroscience Letters
巻: 621 ページ: 104-110
10.1016/j.neulet.2016.04.010.
Journal of Neuroendcrinology
巻: 28(6) ページ: -
10.1111/jne.12396.
巻: 28(9) ページ: -
10.1111/jne.12400.
Neurosci Research
巻: 109 ページ: 63-69
10.1016/j.neures.2016.02.005.