研究課題/領域番号 |
16K08541
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
入鹿山 容子 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 研究員 (90312834)
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研究分担者 |
桜井 武 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60251055)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オレキシン / 敗血症性ショック / リポポリサッカライド / DREADD / 炎症性サイトカイン / カテコールアミン / コルチコステロン / 体温 |
研究実績の概要 |
敗血症は、細菌による感染を発端として、細菌が産生するエンドトキシンなどの毒素が全身に広がり、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全、ショックなどの症状を引き起こす全身疾患である。重症度に幅があり、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショックの順で重篤化し、まだ有効な治療法が確立していない。申請者らは、敗血症性ショックモデルマウスに神経ペプチドである“オレキシン”を末梢持続投与すると、全身性炎症状態で障害を受けた血液脳関門を通過し、中枢作用により重症度の指標である体温と心拍数の低下を回復することを見出した。この生存率の改善効果には、カテコールアミンとコルチコステロンの増加、炎症性サイトカインの減少を伴っていた。低用量オレキシンの脳室内投与でも生存率の改善と抗炎症効果を示したことから、オレキシンの中枢作用により敗血症性ショックマウスの生存率を改善したと考えられた。また、敗血症性ショックにおけるオレキシンの脳内の作用部位について、神経活動の指標となるFosを用いた免疫組織学的探索の結果、延髄縫線核セロトニン神経が有意に活性化されていた(Ogawa, Irukayama-Tomobe, eLife, 2016). 本年度は、オレキシンの標的部位をDREADD (Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs)を用いた薬理遺伝学的方法を用いて検証するために、DREADDの確立を目指した。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて抑制性(hM4Di)、興奮性(hM3Dq)をPet1-Creマウスの延髄縫線核セロトニン神経に発現させ、CNO投与により神経をオン・オフした。抑制性(hM4Di)DREADDを用い、敗血症性ショックマウスの延髄法線核セロトニン神経活動を抑制した場合に、オレキシンによる体温回復効果は消失した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度、アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いて興奮性DREADD (hM3Di)を、Pet1-Creマウス(セロトニン神経特異的にCreリコンビナーゼを発現させたマウス)のセロトニン神経に発現させ、CNOを腹腔内投与することにより、セロトニン神経を特異的に興奮させることで、敗血症性ショックのオレキシンによる体温の回復、抗炎症効果(炎症性サイトカインレベルの抑制)が再現されるかを調べる予定であったが、Pet1-Creマウスの繁殖が予定どおりに進まず実験がやや遅れている。申請者らは、興奮性DREADD (hM3Di)をPet1-Creマウスのセロトニン神経に発現させ体温上昇を確認している段階である。マウスの脳へのAVVベクターの導入方法についてはすでに確立している。
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今後の研究の推進方策 |
アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いて興奮性DREADD (hM3Di)を、Pet1-Creマウスのセロトニン神経に発現させ、CNOを腹腔内投与することにより、セロトニン神経を特異的に興奮させることで、敗血症性ショックマウスの免疫機能の変化を血中の炎症性サイトカインを測定することにより調べる。
敗血症性ショック時の、セロトニン神経の免疫系への役割を解明するために以下の手法を試みる。 1.Pet1-Creマウスとfloxed-hM3Dq(ROSA26部位にloxP-flanked STOPカセット-CAG-hM3Dq-mCherryをノックインした)マウスを交配し、作成したマウス(Pet1-Cre/floxed-hM3Dq)で敗血症性ショックをおこし、CNOの投与によりセロトニン神経活動を活性化させた場合の体温、炎症性サイトカインを評価する。 2. 敗血症性ショックモデルに選択的セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニンアンタゴニスト等を投与し、体温、血中炎症性サイトカインレベルを測定する。有効が確認されたら生存率への効果を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いて興奮性DREADD (hM3Di)を、Pet1-Creマウスのセロトニン神経に発現させ、CNOを腹腔内投与することにより、セロトニン神経を特異的に興奮させることで、敗血症性ショックのオレキシンによる体温の回復、抗炎症効果(炎症性サイトカインレベルの抑制)が再現されるかを調べる予定であったが、Pet1-Creマウスの繁殖が進まずやや遅れているために、予定していた実験の進捗が遅れた。それに伴い消費した物品費などが少なかったために、次年度に使用額を持ち越した。
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次年度使用額の使用計画 |
アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いて興奮性DREADD (hM3Di)を、Pet1-Creマウスのセロトニン神経に発現させ、CNOを腹腔内投与することにより、セロトニン神経を特異的に興奮させ、敗血症性ショックマウスの免疫機能の変化を血中の炎症性サイトカインを測定することにより調べることを計画している。 サイトカインレベル測定用のルミネックス、CNOなどの試薬を購入する。 LPSの効力の指標として、投与後の体温を測定するためにテレメトリー送信機を購入する。
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