精神疾患のメカニズムは未だ不明な点が多く、既存の治療法は社会的要請を十分に満たしていない。近年、脳内のグルタミン酸シグナリング動態の変調が疾患の原因として注目を集めているが(グルタミン酸仮説)、肝心のグルタミン酸動態について十分な知見が得られていない。そこで本研究では、統合失調症およびうつ病を主な研究対象として、申請者らが開発した独創的なグルタミン酸蛍光イメージング法を適用し、病態モデル動物の脳内グルタミン酸動態変調とその機構を明らかにする。これにより、グルタミン酸仮説を直接的に検証し、疾患メカニズムの解明と新規創薬に資する知見を得ることを目指す。 本研究ではグルタミン酸仮説が強く示唆されている統合失調症およびうつ病を主な解析対象とする。実験動物としては、将来的な遺伝子改変病態モデルとの比較や応用を見据え、マウスを用いる。病態マウスを作出し、脳各部位から網羅的にスライス標本を作製し、病態に伴うグルタミン酸動態変調の全容を捉えることを目指す。神経細胞およびアストロサイトによるグルタミン酸の放出と取り込みの動的相互作用を切り分けて解析することで、グルタミン酸動態変調のメカニズムを明らかにする。さらに、グルタミン酸仮説に基づく治療薬候補分子および既存のモノアミン系標的薬の、グルタミン酸動態への薬理作用を直接的に解明する。加えてin vivoでの観察も行い、生体内においてグルタミン酸仮説を直接検証する。 本年度は、健常動物および病態動物から得た脳スライス標本を用い、自発および刺激誘発性グルタミン酸動態を詳細に解析・比較した。さらにグルタミン酸動態をより高感度に検出するために、グルタミン酸イメージング法の改良も試みた。
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