研究課題/領域番号 |
16K08546
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
柏原 俊英 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (20552334)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 心臓 / 幼若心筋細胞 / アンジオテンシンⅡ / 強心作用 / βアレスチン / カゼインキナーゼ2 |
研究実績の概要 |
アンジオテンシンⅡは、成人の心臓では、高血圧、心肥大、心不全などの病態を進行させる増悪因子として広く知られているが、周産期や小児期などの幼若な心臓では、循環を維持するための重要な調節因子と考えられている。研究代表者は近年、マウス新生児の心室筋細胞でアンジオテンシンⅡが、興奮収縮連関の主要因子であるL型Ca2+チャネルを強く活性化させること、これがAT1受容体/βアレスチン2/casein kinase 2a’bを介した経路によることを見出しており、アンジオテンシンⅡが幼若な心臓の機能を亢進させる分子機序を明らかにした。TRV027は、心肥大や心不全を誘発するGq/11経路を抑制しながら、心保護作用を有するβアレスチン経路を活性化させるAT1受容体βアレスチンバイヤスアゴニストである。本研究の目的は、in vivoの幼若心臓でTRV027の強心作用を確認し、幼若期より心不全を呈するマウスへの治療効果を評価することである。本年度では先ず、in vivoの幼若心臓でアンジオテンシンⅡとTRV027の強心作用を確認した。この作用は成体のマウスでは認められなかった。次に、幼少期の心不全マウスに対するTRV027の有効性を検討するために、幼少期より心不全を呈する拡張型心筋症ノックインマウス(cTnTΔK210マウス)の入手と繁殖を行った。cTnTΔK210(+/-)マウスを作成者より譲り受け繁殖させ、実験に用いるのに十分な個体数を確保した。今後は、このマウスを用いて幼少期の心不全に対するTRV027の有効性を評価する。本研究より、AT1受容体βアレスチンバイヤスアゴニストの強心作用を利用した新たな小児心不全治療法の提案を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者はこれまでに、アンジオテンシンⅡとTRV027がin vitroにおいて幼若な心室筋細胞のL型Ca2+チャネル活性を倍増させ、Ca2+トランジェントを有意に増大させることを見出してきた。しかし、この反応が実際に幼若な動物個体で強心作用を発揮するかどうかは明らかでなかった。そこで今回研究代表者は、小動物用高解像度心エコーを用いて、幼若期の心臓に対するアンジオテンシンⅡとTRV027の強心作用を解析した。生後2-5日のC57BL6マウスにおいてアンジオテンシンⅡ(3 mg/kg)とTRV027(3 mg/kg)は、いずれもコントロールに比べ有意に左室内径短縮率を増加させた。この効果は、選択的AT1受容体阻害薬のカンデサルタン(3 mg/kg)でほぼ完全に抑制された。一方、8週齢の成体マウスではアンジオテンシンⅡとTRV027はいずれも強心作用を示さなかった。これよりTRV027は、AT1受容体を介して幼若な心臓に対して強心作用を発揮することが分かった。次に、幼少期の心不全マウスに対するTRV027の有効性を検討するために、幼若期より心不全を呈する拡張型心筋症ノックインマウス(cTnTΔK210マウス)の入手と繁殖を行った。cTnTΔK210(+/-)マウスを作成者より譲り受け繁殖させることで、今後の実験に必要な個体数を確保できた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、幼少期より心不全を呈するcTnTΔK210マウスを用いてTRV027の有効性を評価する。具体的には、雌雄のcTnTΔK210(+/-)マウスを交配させて得られた野生型とcTnTΔK210(+/+)マウスに幼少期より持続的に生理食塩水、TRV027、カンデサルタンをそれぞれ投与して、これらのマウスの生存率及び心機能を評価する。また、心臓のホモジナイズを得て心臓のリモデリングに関わる分子の解析を行う。本研究より、AT1受容体βアレスチンバイヤスアゴニストの強心作用を利用した新たな小児心不全治療法の提案を目指す。
|