研究課題
当研究課題では、動脈硬化性疾患におけるERK5の関与とERK5を介したエピゲノム修飾の関与を明らかにすることを目的としている。内皮間葉転換(EndMT)では内皮細胞マーカー分子の発現が低下し、通常はエピゲノム修飾等によって発現が抑制されている間葉系細胞マーカー蛋白の発現が上昇し、心血管疾患を誘導している可能性が示唆されている。今回、培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いた検討から、NO供与体の添加によりVE-カドヘリンの発現が上昇し、逆にNO消去剤で減少することを見出した。このことから、NO産生が内皮マーカーであるVE-カドヘリン発現、すなわちEndMT誘導に関与する可能性が示唆された。また、玉ねぎなどに豊富に含まれるポリフェノールの一種であるケルセチン誘導体がHUVECにおいてERK5を活性化させ、eNOSの発現を増加させることを見出した。この血管内皮細胞保護効果は、マウスにおいてL-NAMEによって惹起された血管障害も改善することからも確認された。EndMTに対するケルセチンの影響を検討するため、培養内皮細胞を1ヶ月の長期間、ケルセチンの存在下にて培養を続けた。そこで得られたDNAサンプルに関してエピゲノム修飾の変化を認めるか否か、次世代シークエンサーを用いて検討を行った。mRNAの発現については細胞の分化に関わる遺伝子の変化を認めたものの、DNAのメチル化は、ケルセチンの1ヶ月投与による影響は認めなかった。現在は培養血管内皮細胞におけるエピゲノム修飾に対するケルセチンの影響と並行し、強力なEndMTの誘導刺激であるTGF-βシグナルに対するケルセチンの影響についてin vivo, in vitroにて検討を進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
現在までに内皮障害を伴う動脈硬化性疾患モデルマウスにおいてEndMTが誘導されている可能性を見出し、ピタバスタチンあるいはケルセチンといったERK5を活性化させる薬物が内皮細胞マーカーの発現増加を介してマウスの血管障害を改善する可能性が示された。一方で、EndMTを強力に誘導することが知られているTGF-βの血中濃度がモデルマウスで低下し、下流のシグナルであるSmad-2/3 の活性化がダウンレギュレートされている結果を得た。ケルセチンの投与によってTGF-β濃度に影響を及ぼさなかったものの、Smad-2/3の活性化を上昇させるという仮説に反する結果が得られた。これは、内皮細胞におけるTGF-βシグナルと中膜における線維化促進作用としてのTGF-βシグナルが混同して検出されているためだと考えた。そこで、それぞれを個別に検討できるよう、マウスから血管内皮細胞を単離する手法を確立しているところである。以上の通り、当初の予定と異なるアプローチで研究を進める必要が出てきたが、概ね順調に進展していると言える。
EndMTに関連するエピゲノム修飾の変化については、培養細胞を用い、アセチル化酵素阻害剤などを使用して薬理学的に検討する。またこれまでに野生型マウスで観察された内皮細胞マーカーの発現低下が、ERK5内皮特異的欠損マウスで見られるか否かを検討し、エピゲノム修飾関連蛋白の活性化及び発現を、野生型マウス、遺伝子改変マウスの大動脈を用いて解析する。TGF-β-Smad-2/3シグナル伝達経路に関しては、培養血管内皮細胞、培養血管平滑筋細胞を用いてそれぞれにおけるケルセチン、ピタバスタチンの影響を検討する。さらに、野生型および遺伝子改変マウスから血管内皮細胞を単離し、TGF-βに対する反応について細胞特異的マーカーの発現変動から検討する。
3月中に学会参加費としてすでに使用済みであるが、手続き上4月支払いとなったため次年度繰越金として計上している。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
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