抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の低下は神経細胞において酸化ストレスを増大し神経変性を誘発すると考えられる。これまでの研究結果では、神経細胞内のGSH量を増やすことにより神経変性は抑制されることが証明されているが、生体においてGSHは血液脳関門を通過しないため、末梢投与による有効性は確立していない。神経細胞内GSH産生には、アミノ酸トランスポーターEAAC1の働きが必要であるが、本研究においては、EAAC1の蛋白発現を制御するmicroRNA-96-5pを標的とするLNA inhibitorを被験薬としてマウスに経鼻投与し、脳内への移行性とEAAC1発現促進によるGSH増加の有無について検討した。蛍光標識されたLNA inhibitorをC57BL6マウスに単回経鼻投与し、経時的に脳組織を採取した。海馬組織切片を作成し、LNA inhibitorの中枢移行性を共焦点蛍光顕微鏡下で確認した結果、投与3日後の海馬神経細胞において弱いながら蛍光シグナルが確認されGSH量の増加が確認された。これらの結果から、microRNA-96-5pを標的とするLNA inhibitorは経鼻投与により中枢移行し、EAAC1の発現を促進することで神経細胞選択的にGSH産生を促進することが示唆された。しかし、この実験には高用量のLNA inhibitorを必要とし、当初の実験計画を遂行することが費用面で困難であったため、経鼻投与法による薬物送達の効果を促進するためには新たなドラッグ・デリバリー・システムが必要と考えられた。一方、海馬以外の部位での効果や脳内GSH量についての検討は今後の課題となった。
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