研究実績の概要 |
平成28年度および平成29年度の結果に基づき、平成30年度は、正常ハロセン麻酔犬にcaldaret(0.5, 5, 50 ug/kg/10 min, i.v.)を累積的に投与し電気生理学的作用および心血行動態への作用を検討した(n=5)。Caldaretは筋小胞体Ca2+/ATPase(SERCA)の働きを促進するとともにRyR2受容体からの拡張期Ca2+ leakを抑制する化合物である。今回のcaldaretの用量(0.5, 5および50 ug/kg)は細胞内Ca2+動態の修飾作用を期待できる血中濃度を達成しうると考えられた。低-中用量は左室等容性収縮速度を増加し、等容性弛緩速度も増加傾向を示したが、充満期拡張能には作用せず、拡張不全型心不全(HFpEF)よりも収縮不全型心不全(HFrEF)への有用性が期待された。本研究では正常犬を用いて評価しており拡張能改善効果を過小評価している可能性もあるので、慢性心不全モデル動物での詳細な評価が必要と考えられた。高用量は心拍数を増加し、末梢血管抵抗を増大したので、虚血性心疾患やHFpEF患者ではかえって有害かもしれない。低-中用量は房室結節伝導を促進した。これは僧帽弁/三尖弁閉鎖不全を惹起して心房細動の誘因になる可能性がある。中-高用量は右室有効不応期を延長した。心室内伝導速度や再分極過程には影響を与えなかったので、新規機序の心室不整脈予防薬としての可能性がある。以上のように細胞内Ca2+動態の修飾は、変力/変弛緩作用のみならず種々の電気薬理学的作用を有することが明らかになった。細胞内Ca2+動態の変化が心筋に存在する各イオンチャネルに与える作用に関しては細胞レベルでのさらなる機序の解明が必要である。
|