研究課題/領域番号 |
16K08561
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
一瀬 千穂 藤田保健衛生大学, 医学部, 准教授 (10247653)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テトラヒドロビオプテリン / ノルアドレナリン / 一酸化窒素 / Priapism (持続勃起症) / 交感神経 / セピアプテリン還元酵素 |
研究実績の概要 |
Priapism(持続勃起症)はヒトでは鎌状赤血球症の男性の42%に合併することが知られている他、中枢・末梢神経系疾患、向精神薬の使用、腫瘍などが原因となり、放置すれば性機能不全となる。我々の研究グループでは、テトラヒドロビオプテリン(BH4)生合成の第3段階を触媒するセピアプテリン還元酵素遺伝子ノックアウト(Spr-/-)マウスのオスで高率にpriapismを生じることを見出した。priapismは泌尿器学的emergencyの一つであり、一方逆にErectile Dysfunction(勃起障害)の治療法につながる可能性がある。BH4は交感神経節後線維の伝達物質であるノルアドレナリン(Nad)および一酸化窒素(NO)の生合成に必須のコファクターであることから、これらの分子とSpr-/-マウスのPriapismとの関連について解析を行った。4-11カ月齢の野生型マウスでは0% (n=26)、Spr-/-マウスでは69.2% (n=26)の比率でpriapismが観察された。野生型マウスのPenisホモジネート中の総ビオプテリン量は30.9 ± 6.0 pmol/mg protein (n=7)、Spr-/-マウスでは2.49 ± 0.44 pmol/mg protein (n=11)で野生型の8.1%であった。野生型マウスのNad含量は12.6 ± 1.3 pmol/mg protein (n=7)、Spr-/-マウスでは2.20 ± 0.43 pmol/mg protein (n=10)で野生型の17.5%であった。野生型マウスのNO2+NO3(一酸化窒素代謝物)量は2.16 ± 0.17 nmol/mg protein (n=4)、 Spr-/-マウスでは3.45 ± 0.31 nmol/mg protein (n=7)で野生型の158.8%と有意に増加していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Spr-/-マウスの解析について、概要に記した結果を得た。今後、薬物投与によって詳細な機序を明らかにするとともに、(2)キノノイド型ジヒドロビオプテリン還元酵素ノックアウト(Qdpr-/-)マウスの解析、および(3)BH4によるチロシン水酸化酵素(TH)の安定化に関する課題が残っている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Spr-/-マウスで効率に発症するPriapismのメカニズムとしては、交感神経機能の低下とともにNO(一酸化窒素)の産生異常、cGMP分解機構の抑制が考えられる。今後Western Blotting法により、チロシン水酸化酵素、eNOS、PDE5Aおよびそのリン酸化体、nNOSのタンパク質量をひっかくする。Spr-/-マウスにBH4,L-threo-DOPS(Nad前駆物質)、NOS阻害薬のL-NAMEをマウスに投与して経過を観察する。またヒトの鎌状赤血球症に付随するPriapismに関して酸化ストレスの関与が指摘されていることから、NADPH Oxidase, 4-hydroxynonenalなどの酸化ストレスマーカーを定量する。交感神経入力とnNOSの発現については相互調節がある知見を得ており、これについても解析する。BH4生合成系はアデノシン代謝ともリンクする可能性があるため、Spr-/-マウス組織中のプリン体の定量をおこう。 (2)Qdpr-/-マウスにメトトレキサートを腹腔内投与し、BH4/BH2比を変化させ、血管弛緩反応を野生型マウスと比較する。NO代謝物および組織のラジカル生成を測定する。 (3)Spr-/-マウスはじめBH4を欠損させたマウスでは、神経終末でTHの減少が生じる。hsp40と相互作用するシャペロンタンパクDNAJC1とBH4との関連について、新たな系を用いて検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由: 平成29年度はSpr-/-マウスの解析を集中的に行ったが、生じた残額はわずかであった。 使用計画: 平成30年度はSpr-/-マウスのpriapismについての論文を投稿予定である。Qdpr-/-マウスの解析とBH4によるTHの安定化に関する課題に関して新たな試薬等を必要とし、残額を生じない見込みである。
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