研究課題
「外的要因」である抗原により活性化されるとBリンパ球(B細胞)は、細胞増殖しつつ胚中心B細胞へ分化する。胚中心B細胞は、抗体の機能の向上を目的とした胚中心応答を経て、選抜されたのちに、抗体を分泌する形質細胞へ分化する。一方で、B細胞の「内的要因」である転写因子Bach2の発現量の違いが細胞運命を決定することを示してきた。そこで、本研究では胚中心B細胞でのBach2の標的遺伝子は何か、Bach2と協調的または拮抗的に転写調節に関わる因子は何かを解析している。平成29年度には、Bach2がB細胞受容体(BCR)刺激で誘導される増殖応答において、重要な役割を担うことをあきらかにしてThe Journal of Immunology誌に報告できた。Bach2遺伝子ノックアウトマウスの脾臓B細胞はBCR応答性の増殖に障害がある。しかし、BCRの下流のリン酸化シグナル経路は野生型B細胞と同等であることを明らかにした。Bach2は、抗アポトーシス因子のBclXLの遺伝子発現の活性化に貢献してアポトーシスを抑制することを明らかにした。さらにBach2は、CDK阻害タンパク質をコードする遺伝子群Cdkn1a (p21)、Cdkn2a (Arf)およびCdkn2b (p15INK4b)の転写を直接抑制して細胞増殖を促進することをマウス脾臓B細胞を用いたクロマチン免疫沈降法で明らかにした。本年度はマウス脾臓B細胞を用いることで更に生理的な条件下で検討できた。本研究からBach2は成熟B細胞で細胞増殖制御をおこなう重要な転写因子であると考えられる。以前に見出した、形質細胞分化に必須の転写因子Blimp-1の遺伝子発現を抑制する分化におけるBach2の役割に加え、Bach2の異常を原因とする病態を解明できる可能性があるがある。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度には、前述の転写因子Bach2の標的遺伝子の機能解析に加え、Bach2タンパク質に結合する複合体を精製し構成因子を同定する研究計画であった。現在までに、B細胞株にペプチドTag付きBach2を過剰発現させ、複合体の精製を済ませている。ここで、Tagの種類およびBach2の発現量の異なる2種類の条件で精製し、質量分析解析の結果から再現性を検討し、複数の転写因子や転写調節因子を見出している。以前に報告したヒストン脱アセチル化酵素HDAC3も含まれていたことから、精製および質量分析解析による因子の同定は成功していると考えられる。しかし、当初予定していたマウス脾臓B細胞からの複合体精製は、マウスから得られるB細胞数と抗Bach2抗体の免疫沈降効率の問題から、すぐには実験の実施ができないと考えている。従って、現状B細胞株で得られた実験結果をもとに検証する形で進めていく。研究実績欄に記載したことに加えて、形質細胞分化の過程においてBach2と協調的に機能することが予想される転写因子の機能解析も進めている。現在、候補の2因子について、脾臓B細胞分化誘導系でshRNA発現によるノックダウンの系で発現を低下させた場合とレトロウィルスの系で発現を上昇させた場合の両方のアプローチで検証を進めている。さらに、B細胞から形質細胞への分化過程において定量質量分析解析法であるSILAC法にてタンパク質レベルでの発現解析の系はすでに確立しており、現在解析を進めている段階である。
平成30年度は、転写因子Bach2がどのような因子と協調的に形質細胞への分化を調節するという解析を進める。そこで、以下の3つのカテゴリーの因子群の機能解析を実施していく。第一に、シングルセル(単一細胞)レベルでBach2の発現と協調的に機能すると予想される転写因子群。第二に、抗Bach2抗体を用いたクロマチン免疫沈降法と次世代シークエンス法(ChIP-seq)の結果から、Bach2の結合領域の近傍に高頻度に見出される転写因子の結合モチーフに結合する転写因子群。第三に、質量分析解析の結果から、Bach2タンパク質と直接相互作用する転写調節因子群。第三群で同定された複合体構成因子群のなかには、Bach2タンパク質の機能自体を調節する可能性のあるタンパク質が同定された。そこで、Bach2タンパク質量は減少することおよび、Bach2は細胞内局在変化で活性調節を受けていることを踏まえて成熟B細胞から形質細胞へ分化する過程で翻訳後調節のメカニズムの解明も並行して解明する予定である。
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The Journal of Immunology
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http://www.biochem.med.tohoku.ac.jp/