免疫応答において、転写因子Bach2は、成熟B細胞から抗体分泌を担う形質細胞への分化を抑制することによって、抗体のクラススイッチ応答を実行させる役割を担う。野生型マウス由来のB細胞に比べ、Bach2ノックアウトB細胞ではほとんどクラススイッチが生じない。Bach2ヘテロB細胞ではクラススイッチ応答する細胞の頻度が半減することから、細胞ごとのBach2の発現量の違いが細胞の運命決定に寄与する可能性が示唆されていた。そこで、マウス脾臓B細胞をBach2の発現量に基づいて分画し、初代培養系で活性化したところ、Bach2の発現量が多いB細胞はクラススイッチする傾向にあり、一方でBach2の発現量が低いB細胞は形質細胞へ分化する傾向が高かった。次に、培養系で活性化したあとで、Bach2の発現量差で分画し、再度刺激下で培養を続けたところ、同様の結果を得た。ここでの疑問は、Bach2の発現量が何によって規定されるかという点である。第一に脾臓の成熟B細胞は、辺縁帯B細胞と濾胞B細胞の二種類が存在する。そこで、主要な細胞分画である濾胞B細胞で同様の実験を行ったところ、Bach2の発現量に依存した細胞分化傾向が観察された。Bach2の発現量の違いは、単純に細胞種の違いを反映しているだけではない。第二にB細胞ごとの抗体分子の抗原特異性がBach2の発現量を規定する可能性がある。抗体遺伝子トランスジェニックマウスで同様の実験をおこなったところ、Bach2の発現量が細胞運命を規定する傾向が観察された。抗原親和性がBach2の発現量と相関する訳ではない。これらの結果の再現性を取るための追加実験を実施中である。 以上の結果から、B細胞におけるBach2の発現量は内因因子として機能し、外因因子である細胞刺激を受けた時点でのBach2の発現量が、細胞運命決定における重要な要素である可能性が強く示唆された。
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