研究課題
転写抑制因子Bach2 は形質細胞分化を抑制し、クラススイッチ組換えに必須な因子である。これまでに、生命活動に必須な補欠分子族ヘムが、Bach2と直接結合し、DNA結合阻害およびBach2タンパク質分解促進をすることで、Bach2が不活性化し形質細胞への分化を促進し、液性免疫応答を制御する役割を示してきた。更に、Bach2 が天然変性タンパク質であり、ヘムがBach2 の天然変性領域の構造状態を局所的に変化させること明らかにした。しかしながら、このヘム結合に伴う構造変化がBach2の直接標的遺伝子にあたえる影響については不明な点が多い。本研究では、ヘム依存的にBach2と結合する因子を同定したことを手がかりに、ヘム-Bach2 経路による遺伝子発現制御機構の解明を目的としている。本年度は、同定された2つの因子(リン酸化酵素とDNAメチル化酵素)に関して、Bach2の天然変性領域に対する結合能について相互作用解析により検討した。当初GST融合タンパク質としてBach2の天然変性領域を発現・精製させ結合能を評価したが、条件検討が困難であったためタグのないBach2タンパク質を用いてそれぞれの因子について検討した。測定に関しては、弱い結合定数が見積もられたが、Bach2タンパク質の安定性の問題で厳密な結合能の評価までには至らなかった。この検討については、新たな評価系あるいは構築で検討する必要がある。更に、B細胞株を用いたBach2のクロマチン免疫沈降シーケンス法により、ヘム依存的に結合する因子の1つであるリン酸化酵素が、Bach2の直接標的遺伝子であることを定量PCRおよびクロマチン免疫沈降法により明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
ヘムはBach2の天然変性領域に直接結合し構造状態を変化させる。質量分析解析を用いたプロテオミクスの手法により、B Bach2の天然変性領域と相互作用する因子の一つとして、リン酸化酵素とDNAメチル化酵素を同定している。これらの2つの因子に関しては、組換えタンパク質を用いたpull-downアッセイにより、ヘム存在化で結合が高まる結果を得ている。そこで、相互作用解析を用いてBach2331-520とリン酸化酵素およびDNAメチル化酵素それぞれに対し、ヘム存在化・非存在化における結合能を検討した。しかし、相互作用解析で使用するチップに対し、Bach2の非特異的な結合が高いため正確な結合定数を決定することができなかった。現時点では、リン酸化酵素およびDNAメチル化酵素それぞれのBach2天然変性領域に対する結合能は数マイクロモルと考えられる。 現在、リン酸化酵素およびDNAメチル化酵素それぞれに対し、ドメインを発現させる構築を作成している(細胞発現用と大腸菌発現用)。これらの構築を用いて結合能の評価をしていく予定である。リン酸化酵素に関しては、その遺伝子制御領域にBach2が結合する特異的配列が存在していることを見いだしている。実際にクロマチン免疫沈降法によりBach2がこの領域に動員されることを示している。
前年度に作成したリン酸化酵素およびDNAメチル化酵素の、ドメインを発現させるプラスミドを用い、それぞれ発現確認を行う。発現が確認された構築に対して精製条件を検討する。精製条件が確立したドメインに対してGST融合Bach2天然変性領域をもちいてpull-down実験を行う。このとき、ヘム存在化・非存在化でも同様の検討を行う。前年度までの検討で、相互作用解析を用いた天然変性タンパク質Bach2とDNAメチル化酵素あるいはリン酸化酵素に対する結合能の評価は困難であることが示された。上記のPull-down実験の結果に基づき、合成ペプチドを作成し、等温カロリメトリーを用いた結合能の検討を行う。また、リン酸化酵素に関しては、この酵素の遺伝子発現がBach2によって直接制御されることが示されたため、その生理学的意義の解明も行う。最終的にはヘム-Bach2経路に依存した遺伝子発現変化について、阻害剤、あるいは遺伝子ノックダウン実験、免疫染色による局在変化実験を組合せ検討する。Chip-seq解析から、DNAメチル化酵素もBach2によって遺伝子発現が調節される可能性があるため、その検討も行う。
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Biochemical Journal
巻: 475 ページ: 981-1002
10.1042/BCJ20170520