研究課題
RalはRas類似の低分子量GTP結合タンパク質であり、哺乳類には互いに約80%の相同性を持つRalAとRalBが存在する。エキソサイトーシス、エンドサイトーシスなどメンブレントラフィックの制御がRalの主な機能であるが、その他にもRalはアクチン細胞骨格、細胞の増殖、遊走や生存の制御など様々な機能を有している。Ralはがん遺伝子産物Rasの下流で活性化されることが知られており、近年の多くの知見により、Ralの異常な活性化が、がん化やがんの浸潤・転移に深く関わっていることが示唆されている。研究代表者はRalの不活性化酵素Ral GTPase-activating protein (RalGAP)複合体を分子同定し、RalGAPの発現低下にともなうRalの恒常的な活性化が、膀胱がんの浸潤・転移に重要であることを報告した(Saito et al., Oncogene, 2013)。しかしながら、がん化、浸潤・転移を担うRal下流経路の分子メカニズムについてはほとんどわかっていない。本研究は、研究代表者が新たに同定したRalの下流シグナリング経路の解析を通してRalによるがん化、浸潤・転移促進の分子メカニズムを明らかにことを目的とする。また、新たに作製したRalGAPβコンディショナルノックアウトマウスを用いて組織特異的にRalが恒常的に活性化したマウスを作製し、Ralのがん化、浸潤・転移における役割について生体を用いた解析を推進する。本年度は主に研究代表者が同定した新規Ral結合タンパク質p140のリコンビナントタンパク質、ノックアウト細胞を用いたin vitroでの解析、およびRalGAPコンディショナルノックアウトマウスの解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度は主に研究代表者が新たに同定したRal結合タンパク質p140について解析を進めた。p140はGTP型RalA、RalBに特異的に結合することを確認した。また、p140、およびp140結合タンパク質をバキュロウイルス発現系により作製し、Ralによるp140機能制御の分子メカニズムの解析を進めた。さらに、CRISPR/Cas9システムを用いることによりp140のノックアウト細胞を樹立することに成功した。これらを用いRalの恒常的活性化によるがん化、浸潤・転移促進の分子メカニズムの解析を行った。RalGAP複合体は触媒サブユニットα1またはα2と、共通サブユニットβのヘテロ複合体であり、α1とα2には機能的な冗長性が存在する。したがって本計画では、Ral活性化の生体における意義を明らかにするためにRalGAPβのコンディショナルノックアウトマウスを樹立した。本年度は、本マウスとcreリコンビナーゼ発現マウスを掛け合わせることで組織特異的にRalGAPが欠失したマウスを作製することができた。また、同マウスよりマウス胎児繊維芽細胞を樹立し解析を進めた。以上より、本研究計画はおおむね順調に進捗していると考えられる。
当該年度に作成することができたRal結合タンパク質p140のノックアウト細胞、リコンビナントp140、およびp140結合タンパク質を用いRalの活性化が細胞の浸潤・転移能に与える影響、およびその分子メカニズムを明らかにしていく。特にp140により制御されるがん抑制遺伝子径路とRalの機能的な関わりにについての解析を推進する。また、樹立したRalGAP組織特異的ノックアウトマウスを用いRalの恒常的活性化が生体におよぼす影響を解析する。RalGAP単独のノックアウトではがん化に十分でない可能性があるため、コンディショナルK-RasG12Vマウスと掛け合わせることでRas誘導性のがんの悪性化にRalが与える影響を解析していく計画である。化学発がんモデルにおけるがんの悪性化についても評価する。これらの計画により、Ralの恒常的な活性化ががん化、がんの浸潤・転移におよぼす影響、およびその分子メカニズムを明らかにする。
本年度は当初計画の通り飼育マウスが繁殖せず、マウス遺伝子型解析用の試薬類の新規購入をする必要がなかった。したがって、その分の次年度使用額が生じた。
次年度は計画通りに飼育マウス数が増加するため、その遺伝子型解析のために次年度使用額を使用する計画である。
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J Clin Immunol.
巻: 37 ページ: 92-99
10.1007/s10875-016-0357-3
http://www2.idac.tohoku.ac.jp/dep/mcb/index.html