我々はこれまでに、リゾホスファチジン酸 (LPA) 受容体であるLPA4とLPA6の二重欠損マウスが胎生期の血管形成不全が原因で致死となること、およびヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)に発現するLPA4/LPA6が三量体Gタンパク質G12/13、低分子量Gタンパク質Rho、転写共役因子YAP/TAZ シグナルを介して、Notch経路の血管制御因子DLL4の発現を抑制し、血管内皮細胞の萌出に寄与することを明らかにしてきた。今回我々は血管内皮細胞のLPA4とLPA6が新生期の網膜血管新生に果たす役割と、YAPがDLL4発現を抑制する分子機序の解明を目的に研究を行った。 血管内皮細胞特異的にLPA4/LPA6を二重欠損させたマウスは、Controlマウスと比較して網膜の血管新生(血管の伸長の程度、血管の分岐数、網膜における血管内皮細胞が占める割合、血管先端細胞の数)が損なわれており、さらにより高解像度の顕微鏡画像解析により、血管先端細胞から萌出する糸状突起(filopodia)の数や平均長も二重欠損マウスでは有意に低下していた。これらの異常はNotch阻害剤であるDAPTを解析の2日前にマウスに皮内投与することにより改善した。また、二重欠損マウスの血管先端領域の血管内皮細胞では、Controlマウスのそれと比較して、YAPの核内移行が低下し、DLL4の発現量が増加していた。さらにHUVECを用いた細胞内シグナル解析およびDLL4発現解析により、核内のYAPは転写因子TEAD非依存的に、Aktリン酸化が促すβ-cateninとNotch intracellular domain (NICD)を介したDLL4発現誘導作用を負に制御する分子機構を明らかにした。
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