スフィンゴシン1-リン酸(S1P)は血液中を循環する生理活性脂質であり、正常な血管機能の維持に重要な役割を果たす。S1Pは血液中では高密度リポタンパク上 のアポリポタンパクMまたは血清アルブミンに結合して循環しているが、申請者のこれまでの研究から、血液中にはこれらのタンパク質とは別のS1P担体分子が存在する可能性が明らかになってきた。本研究課題では、アポリポタンパクMと血清アルブミンの両者を欠損させたマウスから調製した血漿を出発材料として、第三のS1P担体分子を分離精製し、機能的な役割に関して、アポリポタンパクMおよび血清アルブミンと比較検討を行うことを目的として研究を行った。平成28年度は、アポリポタンパクMと血清アルブミンの両者を欠損させたマウスから調製した血漿を出発材料とし、第三のS1P担体分子を分離精製することに取り組んだ。質量分析計を用いたS1P含量測定を指標としてゲルろ過法およびイオン交換法によりマウス血漿の分画を進めた結果、比較的精製の進んだ画分にS1P結合活性が見出された。この画分を質量分析計を用いて分析したところ、十数種のタンパク質を同定した。このうちの数個のタンパク質はS1P結合タンパク質として機能する可能性が高いと考えらえた。そこで、平成29年度は、これらの候補タンパク質のS1P結合活性を確認すべく、リコンビナントタンパク質の大量発現系とS1P結合活性測定の系を確立した。平成30年度は、5つの候補タンパク質についてリコンビナントのタンパク質を大量調製し、S1Pとの結合活性を検討したところ、1つの候補タンパク質においてアルブミンを上回る 結合活性が確認され、第三のS1P担体分子として有力な候補であることが明らかになった。また、このタンパク質に結合したS1Pは受容体の活性化能を有しており、機能的なS1P担体分子であることが明らかになった。
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