研究課題/領域番号 |
16K08578
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
李 知英 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, プロジェクト講師 (20402860)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 1倍体ES細胞 / 細胞周期 / 半数性 |
研究実績の概要 |
本研究ではフォワードジェネティクスにとっても有効な1倍体ES細胞の半数性・多能性維持に関連する細胞周期及びシグナルカスケードを解明、可逆的な倍数性の制御が可能か検討することで半数性の維持をより完璧に制御できる実験系の構築を試みた。 申請者の前回の研究で細胞周期のG2期からM期への変換を抑制するWee1 阻害剤はPD166285とMK1775両方とも1倍体ES細胞の半数性維持に有効であることが明らかとなったが(特許出願)、より安定な培養条件の最適化が必要であるため、半数性維持効率上昇のための新規ターゲット探索と効果検証を行った。 Wee1阻害剤によるcyclinB, cdc2複合体の制御だけではなくその近傍で働く因子 (14-3-3)もターゲットとして、それらの阻害剤やantagonist (R18, Difopein, BV02)の効果を検証した結果、14-3-3 蛋白質の阻害剤R18 添加培地は、高効率な細胞増殖性を示すとともに半数性維持能力を示すことが明らかとなった。また、R18とBV02を用いて14-3-3を阻害することで1倍体ES細胞の樹立初期の1倍体細胞の比率が著しく上昇した。さらに、最初のソート後の1倍体ES細胞にROCK inhibitorであるY27632を添加することによって1倍体ES細胞の細胞死を防ぐことができた。 また、1倍体、2倍体ES細胞のDNAメチル化状態が不安定なことから、ES細胞のエピジェネティックな安定性を保つ培養条件を探索し、FBS+2iの条件が有効であることを示した。 従って、14-3-3 とROCKの阻害剤を用いることで1 倍体ES 細胞の安定的な樹立及び培養ができ、またFBS+2iによってはエピジェネティツクに安定なES細胞の維持が可能になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究で細胞周期のG2期からM期への変換を抑制するWee1 阻害剤は1倍体ES細胞の半数性維持に有効であることが明らかとなったが、より安定な培養条件の最適化が必要であるため、平成29年度には 細胞周期調節による半数性維持のための培養条件の最適化のための研究を継続するとともに、ES細胞においてインプリンティング領域のDNAメチル化状態の破綻を防ぐための培養条件を検討した。 その結果、G2期からM期への変換 に働くcdc25 を不活化する14-3-3 を阻害すること(R18, BV02)で、G2 arrest を防ぎ、1倍体ES細胞の半数性の維持と樹立効率を上げることができた。また、1倍体ES細胞の樹立が困難であった一つの原因である、ソート後のES細胞の細胞死をROCK inhibitorであるY27632を添加することで解決できた。さらに、ES細胞においてインプリンティング領域のDNAメチル化状態の安定的な維持のために、KSR+2i, KSR, FBS+2i, FBSの条件を検討した所、FBS+2i培地を使うことで、ES細胞のDNAメチル化維持と正常なDNAメチル化を保つES細胞の樹立ができた。したがって「半数性維持のための培養条件の最適化及びエピジェネティックに安定なES細胞の培養条件決定」を達成できたと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果を基に1倍体細胞を安定に維持できる最適な条件(R18, BV02, Y27632, FBS+2i)で、遺伝子改変による半数性と多能性維持と分化の制御のための研究を行う。そのために、2倍体ESに比べて1倍体ES細胞で沢山発現する遺伝子であるWnt10aとCxcl5をレンチウイルスで感染させてこれらの細胞で半数性が維持されるかどうかを検討し、また、これらの遺伝子を2倍体ES細胞に過剰発現させた場合、2倍体細胞が1倍体細胞に変換できるかについても検討する。 さらに、積極的に半数性を獲得させるため、分化に伴う2倍体化の抑制を試みる。具体的には、1倍体ES細胞は分化すると2倍体化するため、分化した状態で半数性を維持させるためにも、Wnt10aとCxcl5の過剰発現を試す。1倍体ES細胞をLIF無しの分化培地に培養しembryoid body (EB)を形成し、上記のレンチウイルスを感染させてFACSにより2倍体細胞の減少を確認する。遺伝子改変1倍体ES細胞(Wnt10a, Cxcl5)からEBを形成した場合についても2倍体細胞率を測ることにより、両遺伝子の働くタイミングも明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 旅費の使用がなかったため、次年度使用額が生じた。 (使用計画) 次年度使用額は物品費またはその他(実験機器使用料等)として使用する予定である。
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