研究課題
28年度からの研究を継続し、ヒストンアセチルとランスフェラーゼHBO1とヌクレオチド除去修復(NER)機構との関連を調べている。HBO1は紫外線照射によりDNAが損傷するとチェックポイントのセンサータンパクであるATRによりリン酸化され, NERのコア因子DDB2と結合する。この結合によりDNA損傷部位近傍のヒストンH3, H4をアセチル化していることが明らかとなった。興味深いことにこれらのアセチル化とヒストンH3K4のトリメチル化は正の相関関係がありHBO1を欠乏した細胞ではH3K4トリメチル化も減弱している。最近新たに明らかとなったことはH3K4トリメチル化を介してISWIファミリーに属するクロマチンリモデリング因子ACF1/SNF2HがDNA損傷部位にリクルートされてくることである。ヒストンのアセチル化とリモデリングによりクロマチン構造を変換することが円滑なNERに重要であろうことが示唆された。この一連の機構を誘導するATRは細胞周期のG1期においてはNERにより出現する一本鎖DNAに依存して活性化することがXP細胞を用いた実験から確認された。S期においてATRは主としてDNA複製阻害により生じる一本鎖DNAにより活性化されることもXP細胞による実験から明らかとなった。よって本研究課題のS期特異的NERの本体はDNA複製とATR活性化に由来する機構であることが予想される。
2: おおむね順調に進展している
XP細胞を用いることでATRを活性化させるために必要な要因がNERとDNA複製にあることを確認することができた。S期においてDNA複製阻害によるATRの活性化はNER依存的なATR活性化を遥かに凌駕することが明らかとなった。このため課題の解明に近づいていると言える。
S期特異的なNER機構はDNA複製阻害により誘導されるATR活性化が原因であろうと予測された。この機構がなぜメラノーマ細胞において特に欠損しているのか、まだ手がかりが得られていない。今後の研究の方針としてメラノーマ細胞におけるATR活性化能を検討する必要がある。
細胞周期特異的なNER機構を明らかにするため細胞培養試薬、分子生物学試薬、siRNA、DNAプライマーなど2017年度以上に必要となるのでこれらに充てたい。またよりクリアーな回析を行うためにゲノム編集を用いてメラノーマ細胞においてATR変異およびその下流に関与すると予想される分子のノックアウト細胞を樹立するために予算を充てる。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Nature Communications
巻: 8 ページ: 1-15
10.1038/NCOMMS16102