研究課題/領域番号 |
16K08583
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大森 義裕 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (90469651)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 繊毛 / IFT / 視細胞 |
研究実績の概要 |
本研究提案では、脊椎動物モデル(ゼブラフィッシュやマウス)を用いて、中枢神経系における繊毛の役割を解明する。ゼブラフィッシュ変異体の解析に関しては、これまでに、鞭毛内輸送(intraflagellar transport, IFT)複合体Aの構成要素の1つであるIFT122の変異体を同定したが、昨年度はこの変異体の詳細な表現型解析を進めた。ゼブラフィッシュIFT122変異体ではこれまでに報告されている中では、どの視細胞変性ゼブラフィッシュ変異体よりも視細胞変性が遅延していることがわかり、IFT122変異体は新しいタイプの視細胞変性モデルとして有用であることが明らかとなった。IFT122変異体視細胞におけるオプシンの輸送機構を明らかにするために、ヒートショックによりオプシンGPF融合蛋白質を発現誘導することができるシステムを用いて解析を行った。IFT122変異体にオプシンGPF融合蛋白質を発現させたところ、オプシンGPF融合蛋白質の外節への輸送が野生型と比べて有意に遅いことがわかった。しかし、外節への輸送能はIFT122変異体においても完全に欠失したわけではなく、ある程度の輸送能は保たれておりIFT122は繊毛を介した蛋白質の輸送効率を制御する因子であることが明らかとなった。これらの結果は、学会発表を行うとともに、国際的な学術誌において論文として掲載された。現在、ゼブラフィッシュの変異体作製のためCRISPR/CAS9システムによる高効率なゲノム編集を行う実験系の開発を進めている。一方で、マウスを使った神経系における繊毛機能の解析も順調に進んでおり、昨年度は繊毛キナーゼであるICKの内耳における役割を解析し論文として報告した。IFT-floxマウスと中枢神経系にCreを発現するマウスの掛け合わせも進めている。これらのマウスを用いて中枢神経系における繊毛の機能と繊毛型GPCRの関係の解明を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゼブラフィッシュ変異体の解析に関しては、これまでに、鞭毛内輸送(intraflagellar transport, IFT)複合体Aの構成要素の1つであるIFT122の変異体を同定した。この変異体は網膜視細胞において進行性の視細胞脱落が見られる。昨年度はこの変異体の詳細な表現型解析を進めた。ゼブラフィッシュ幼魚の凍結切片を用いて蛍光免疫染色を行い視細胞の変性状態を詳細に観察したところ、ゼブラフィッシュIFT122変異体ではこれまでに報告されている視細胞変性モデルゼブラフィッシュよりも、視細胞変性が著しく遅く進むことがわかった。このことからIFT122変異体は、新しいタイプの視細胞変性モデルとして有用であることが明らかとなった。IFT122変異体の視細胞におけるオプシンの輸送機構を明らかにするために、ヒートショックによりオプシンGPF融合蛋白質を発現誘導することができるシステムを用いて解析を行った。ゼブラフィッシュ網膜にオプシンGPF融合蛋白質をコードする遺伝子をTol2システムによって導入し、ヒートショックによりオプシンGPF融合蛋白質を誘導したところ、野生型のゼブラフィッシュではオプシンGPF融合蛋白質が視細胞外節へ効率よく輸送された。これに対し、IFT122変異体にオプシンGPF融合蛋白質を発現させたところ、オプシンGPF融合蛋白質の外節への輸送が野生型と比べて有意に遅いことがわかった。しかし、外節への輸送能はIFT122変異体においても完全に欠失したわけではなく、ある程度保たれておりIFT122は繊毛を介した蛋白質の輸送効率を制御していることが明らかとなった。これらの結果は学会発表を行うとともに、国際的な学術誌において論文として掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ゼブラフィッシュの変異体作製のためCRISPR/CAS9システムによる高効率なゲノム編集を実現する実験系の開発を進めている。Cas9遺伝子に関してはプラスミドに組み込まれた遺伝子からin vitro転写キットを用いてmRNAの合成を行っている。これまでの実験により、高効率でインジェクション用のmRNAを合成することに成功している。また、最近、精製済みのCas9蛋白質の購入が可能との情報を得たので、このタンパク質を購入しゼブラフィッシュ胚にインジェクションすることでCRISPR/CAS9システムによるゲノム編集を試みることを予定している。一方で、マウスを使った神経系における繊毛機能の解析も順調に進んでいる。昨年度は繊毛キナーゼであるICKの内耳における役割を解析し、論文として報告した。IFT-floxマウスと中枢神経系にCreを発現するマウスの掛け合わせも進んでおり、これらのマウスを用いて中枢神経系における繊毛の機能と繊毛型GPCRの関係の解明を進める予定である。一方で、これまでに複数の繊毛における機能が未知である蛋白質が繊毛に局在することを見出しており、これらの遺伝子欠損マウスの表現型解析を進めている。以上の研究を行うことにより、中枢神経系における繊毛機能の解明を進展させる。
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