研究実績の概要 |
ホスホイノシタイドホスファターゼINPP5Kのbi-alleic mutationが先天性筋疾患であるマリネスコシェーグレン症候群の患者より2017年に複数同定された。これらの変異はいずれも酵素活性を低下させるものであった。マウス筋芽細胞にこれらの変異INPP5Kを導入したところ、小胞体ストレス依存的に産生されるPI(4)P量の低下が認められた。これはINPP5Kが小胞体ストレス依存的にPI(4,5)P2からPI(4)Pを産生していることを表している。また、これらの変異体の発現によって、小胞体ストレス応答のマーカーであるGRP78,Xbp-1s,Chopなどの発現が少し上昇した。マリネスコシェーグレン症候群の患者で見られるSIL1遺伝子の変異では小胞体ストレス応答の上昇が認められることが分っていることから、INPP5K遺伝子変異による骨格筋での小胞体ストレス応答の上昇が、先天性筋疾患の一因であることが示唆された。 また、INPP5KによるPI(4)P産生と細胞内のカルシウム動態が大きく関わることが示唆された。細胞内カルシウム濃度の上昇がINPP5Kの酵素活性を上昇させ、また、PI(4)P産生によって細胞内へのカルシウム流入が低下することも明らかになった。小胞体ストレス応答は小胞体内カルシウム濃度に依存することから、INPP5Kによる細胞内カルシウム制御が、小胞体ストレス応答制御の直接的な原因であることが示唆された。 以上の結果はPI(4,5)P2ホスファターゼの中でもINPP5Kに特異的な現象であったことから、INPP5Kによる細胞内の局所的なPI(4)P産生が起こっていると考えられる。
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