研究課題/領域番号 |
16K08585
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
伊集院 壮 神戸大学, 医学研究科, 助教 (00361626)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ホスホイノシタイド / がん細胞 / ホスホイノシタイドホスファターゼ / SHIP2 |
研究実績の概要 |
ホスホイノシタイドはシグナル伝達物質としてのみならず、細胞内小器官や細胞骨格の制御を介して細胞の形や性質を決定する分子としても機能している。私はホスホイノシタイドホスファターゼによる脱リン酸化によるホスファチジルイノシトール3,4-2リン酸 [PI(3,4)P2]やホスファチジルイノシトール-4-1リン酸 [PI(4)P]の能動的な産生が、細胞の性質の決定に重要な役割を果たしていることを明らかにした。具体的には、乳がん細胞の運動能や浸潤転移能のコントロールにおいて、5-ホスファターゼSHIP2によるホスファチジルイノシトール3リン酸 (PIP3)の脱リン酸化とPI(3,4)P2の産生が大きな役割を持つことを示した。また、ホスホイノシタイドおよびホスホイノシタイドホスファターゼの役割はがん細胞の性質によっても大きく異なることを明らかにした。実際にがん細胞やがん種に依存して、ホスホイノシタイドホスファターゼ分子の発現や翻訳後修飾が非常に多様に制御されていること、ホスホイノシタイドホスファターゼ分子はがん抑制遺伝子としても、同時にがん遺伝子としても機能し得る非常に面白い性質を持つ分子群であること明らかにした。この分野は非常にがん研究においても重要なトピックであり、この分野における現在の研究状況を総説としてseminars in cancer biology誌に発表した。また、ホスホイノシタイドホスファターゼSKIPおよびPIPPの分子レベルでの解析を行い、これらのホスファターゼが小胞体上におけるホスホイノシタイド代謝を行っていることを明らかにした。小胞体におけるホスホイノシタイドの役割に関しては未解明な部分も多いため、今後さらなる詳細な機能解析を行う必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞における局所的なホスホイノシタイドのリン酸化・脱リン酸化に関する分子レベルに基づいた研究は非常に複雑で困難であるが、本研究ではその性質をかなり詳細に分子レベルまで解析することに成功した。なかでもホスホイノシタイドホスファターゼSHIP2,SKIP,SAC1による能動的なホスホイノシタイドの脱リン酸化機構において、小胞体やリソソームが関与していることを明らかにすることができた。さらに、がんや筋疾患など未解明な部分が多い疾患へのこれらの分子の関与の一端を示すことができた。以上のことから、本研究はおおむね計画通りに進捗していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの結果によって、ホスホイノシタイド5-ホスファターゼが単なるホスホイノシタイドの脱リン酸化酵素でなく、能動的にPI(3,4)P2やPI(4)Pを産生する酵素であることが示された。しかし、5-ホスファターゼ分子は全部で10種類存在する。これらが協同的に作用しているのか、それとも特異的な機能を有しているのかに着目し、ホスホイノシタイドホスファターゼががんや難病疾患とターゲットとなり得ることを示すことを最終目標に研究を遂行する。また、これらの結果を学術論文や総説の形で発表し、学会発表などを通じて広く公表していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果を学術論文に原著論文および総説として投稿し、発表予定であるが、その論文に必要な研究を遂行するための消耗品の購入・論文の投稿料および論文のオープンアクセス料の費用として合計42万円を2019年に支払を行う予定であり、そのために次年度使用額が生じた。
|