研究課題
個々の組織を形成する細胞はそれぞれ固有の寿命をもつことが知られているが、細胞ごとに異なる寿命制御の機構についてはほとんど明らかにされていない。そこで研究代表者は、腸上皮細胞をモデルとして用い、細胞外・細胞内の両面から腸上皮細胞の寿命制御機構の分子基盤について明らかにすることを目的とした研究を進めている。研究代表者は本研究の開始前までに、腸内細菌の産生する短鎖脂肪酸が腸上皮細胞の寿命を短命化している可能性を見出していた。そこで本年度は、腸オルガノイド培養系を用いることにより、短鎖脂肪酸が腸上皮細胞のどのような細胞内シグナルに影響を与えるかについて評価を行った。その結果、腸上皮細胞において短鎖脂肪酸はMAPK(mitogen-activated protein kinase)の活性化を誘導することを明らかにした。一方で、短鎖脂肪酸以外の腸内容物も腸上皮細胞の寿命を制御している可能性がある。そこで本年度はそのような物質の同定を試みた。現在、腸内容物をゲル濾過クロマトグラフィーによって分画し、どの画分に腸上皮細胞の寿命を制御する因子が含まれているかについて絞り込みを進めている。さらに研究代表者は、これまでに腸上皮細胞特異的Tsc2ノックアウトマウスの解析により腸上皮細胞でのTsc2欠損によって誘導されるmTORC1の活性化が腸上皮細胞の短命化を促進する可能性も見出していた。そこで本年度は腸上皮細胞特異的Tsc2ノックアウトマウスについてさらに詳細な解析を進めた。その結果、Tsc2の欠損した腸上皮細胞はターンオーバーが促進することによって短命化すると同時に、分化の異常も生じていることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
申請時に予定していた研究内容を順調に進めることが出来、得られた研究成果を論文及び学会で公表することが出来たため。また、更なる研究成果の公表に向けた端緒となる実験結果を現時点で得ているため。
前年度の研究内容を継続する。特に、腸内細菌に由来しない腸上皮細胞の寿命を制御する因子について同定を進める。同定後はその因子につき、作用機序や生理機能についてマウス個体や細胞レベルで明らかにして行く。また、腸上皮細胞特異的Tsc2ノックアウトマウスを用いることで、Tsc2の欠損によるmTORC1の活性化が腸上皮細胞の短命化を起こす詳細なメカニズムをさらに明らかにすると同時に、腸上皮細胞の短命化がマウス個体に及ぼす影響についても解析を進める。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
PloS One
巻: 11 ページ: e0156334
10.1371/journal.pone.0156334
http://www.med.kobe-u.ac.jp/tougou/signal/Home.html