研究課題
脊椎動物の体は複雑な三次元的形態をしており、組織や器官が正しく形作られ適切に配置されることにより初めて機能を発揮する。こうした三次元的な形態形成の場には組織張力の制御が不可欠であるが、その詳細な分子機構については不明な点が多い。これまでに私たちは、初期形態形成不全メダカ変異体の網羅的スクリーニングの過程において、体全体が扁平化するhirame (hir) メダカ変異体を見出した。これは器官サイズを制御するHippoシグナル伝達系の核内標的分子YAPの変異が原因であり、YAPがアクトミオシンネットワークの活性制御を通じて組織張力を調節し、三次元組織の構築と配置を統御していることが判明した[Nature(2015)]。しかしながら、Hippo-YAPシグナル伝達系がいかにして上皮組織を構成する個々の細胞間の力学的な相互作用を統御し、三次元的な組織構築・維持を実現しているのかという問題は未だ明らかになっていない。私たちはこうした背景を踏まえ、メダカ胚の立体組織形成・維持において、組織の力学特性を統御するYAP分子ネットワークの実体を明らかにすることを目的に、RNA-seq法によりメダカ野生型とhir変異体との間の比較トランスクリプトーム解析を行い、hir変異体において顕著な発現変動を示す複数の遺伝子を明らかにした。さらにYAPメカノ分子ネットワークの候補分子について、CRISPR-Cas9法を用いたノックアウトフィッシュの作成を遂行した。現在までに、複数のノックアウトホモ変異体フィッシュが得られており、表現型の解析を進めている。今後、ノックアウトフィッシュの詳細な表現型解析を推進することにより、YAPメカノ分子ネットワークの破綻がどのように疾患の発症・増悪へ関与するのかを明らかにできると考えている。
2: おおむね順調に進展している
これまでに私たちはYAPメカノネットワークの候補分子を複数見出しており、当初計画に従いこれらのノックアウトフィッシュの作出に取組んできた。現在までに、複数のノックアウトホモ変異体フィッシュを樹立することに成功している。
これまでに作出に成功したノックアウトホモ変異体の詳細な表現型解析を行うとともに、モルフォリノアンチセンスオリゴを用いたノックダウン法による表現型解析を並行して進め、より効率的にYAPメカノネットワークの候補分子の機能解析を推進する。
当初の研究計画の通りYAPメカノホメオスターシスの分子基盤を支える候補遺伝子のノックアウトフィッシュの作出を進めてきたが、当初予定よりノックアウトホモ系統の樹立に時間を要した。このため計画を一部見直し、モルフォリノアンチセンスオリゴを用いたノックダウン法などの簡便な手法と組み合わせ、より効率的にYAPメカノネットワークの候補分子を詳細に解析すべきとの考えに至り、こうした研究計画の一部練り直しのために研究補助期間を延長し次年度使用額が生じた。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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