研究課題
N-アシル-ホスファチジルエタノールアミン(N-アシル-PE)は、ヒトを含む自然界に広く分布する膜リン脂質の一つであり、脂質メディエーターであるN-アシルエタノールアミンの前駆体であるとともに、それ自体も膜安定化作用などを示す。本研究課題の目的は、ほ乳動物でN-アシル-PEの代謝に関与する酵素の実体を明らかにすることで、不明な点の多いN-アシル-PEの生理的役割を解明することである。本年度は、以下の2点で進展を認めた。1.申請者らがホスホリパーゼA/アシル転移酵素(PLAAT)-1と名付けたタンパク質がN-アシル-PEを生成するN-アシル転移酵素活性を有することを申請者らは既に報告しているが、最近、データベース上でPLAAT-1にはN末端側に塩基性アミノ酸に富んだドメインを有する未解析のアイソフォーム (仮称L型) が存在することを見出した。そこでまず、L型のmRNAがヒトとマウスの種々の臓器で実際に発現していることをRT-PCR法で示した。特記すべきこととして、ヒトでは既知のアイソフォームの発現が全く認められなかった。既知の型とは異なり、L型は細胞質に加えて核内にも存在する一方、酵素的性状は既知の型と大差なく、同分子が核内でN-アシル-PEを生成する可能性が示唆された。2. N-アシル-PEの分解経路に含まれるリゾホスホリパーゼD型酵素として、我々が既に報告したグリセロホスホジエステラーゼ(GDE4)に加えてGDE7を見出した。GDE4が活性発現にMg2+を要求するのに対し、GDE7はCa2+を特異的に要求し、マイクロモル濃度のCa2+でも活性が増加することから、細胞内でCa2+により活性調節を受ける可能性が考えられた。以上より、N-アシル-PEの代謝に関与する2つの酵素についての新知見が得られた。N-アシル-PEの生理的役割の解明に向けて役立つことが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題に沿った研究を実施した結果、PLAAT-1とGDE7というほ乳動物でN-アシル-PEの代謝に関与する2つの酵素についての新知見が得られたので、現在までの進捗状況はおおむね順調であると判断した。
本研究課題で重要な酵素であるCa2+依存性N-アシル転移酵素のcDNAが、2016年に米国のグループによって同定されたので、同酵素の組換えタンパク質や遺伝子欠損マウスの解析を研究内容に追加して、引続き研究を進めたい。
少額であるので使いきれなかった。
少額であるので次年度に使用する。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.med.kagawa-u.ac.jp/~biochem/index.html