研究課題
がん部におけるマイクロRNA (miRNA)の産生低下に関与する因子としてHippoシグナルの中心的な役割を有する転写共役因子YAPがある。我々はがん部において高発現した二本鎖RNA結合タンパク質NF90-NF45が、がん抑制型miRNAの生合成を負に制御することを見出した(Higuchi et al. JBC 2016)。そこで、miRNA生合成経路におけるYAPとNF90-NF45との相関性を探った。免疫沈降解析により、NF90-NF45とYAPは相互作用しないことが分かった。この結果は、YAPとNF90-NF45によるmiRNA生合成抑制は独立して行われることを示している。さらに、YAPのノックダウンはNF90-NF45の発現量に影響を及ぼさなかった。このことからYAPはNF90-NF45を転写の標的にしないことが分かった。今後、NF90 KO細胞を用いてNF90-NF45がYAPの発現に影響を及ぼすかを検証する。我々はこれまでに肝細胞がんにおいて高発現したNF90-NF45ががん抑制miRNAであるmiR-7の生合成を抑制し、がん化を促進することを見出した。興味深いことにNF90 mRNAのstop codonの近傍にmiR-7の標的予測配列が存在することを見出した。そこで肝がん細胞株にmiR-7を過剰発現させてNF90-NF45の発現を解析した。その結果、miR-7の増加に伴いNF90-NF45の発現量は顕著に減少した。また過剰発現したmiR-7はNF90 mRNA上のmiR-7結合予測部位を3’側に有するLuc遺伝子のLuc活性を有意に抑制した。このことは、NF90 mRNAがmiR-7の直接の標的であることを示している。これらの結果よりがん部におけるNF90-NF45の発現増加は、NF90-NF45によるmiR-7の産生抑制に一部起因することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
研究申請書に記載した平成28年度の研究計画の課題項目は「がん細胞におけるNF90-NF45の発現増加メカニズムの解明」である。肝細胞がんにおいてがん部で高発現したNF90-NF45は、がん抑制miRNAであるmiR-7の生合成を抑制する。NF90 mRNAのstop codon近傍にはmiR-7の標的予測配列が存在する。平成28年度の実験遂行により、miR-7が過剰発現したがん細胞株ではNF90-NF45の発現が顕著に低下することがわかった。また、NF90 mRNA上に存在するmiR-7標的予測配列をLuc遺伝子の3’側に連結したリポーター遺伝子を構築した。このリポーター遺伝子を用いmiR-7の高発現の有無によるLuc活性を解析したところ、miR-7の高発現により当該リポーター遺伝子のLuc活性は有意に低下した。この解析により、NF90 mRNAに存在するmiR-7標的予測配列は、miR-7の直接のターゲットになることが明らかとなった。これらの解析結果より、がん部におけるmiR-7の産生低下は、NF90の発現増加を引き起こすことが示唆された。NF90とNF45は互いに安定性を高めあうことがわかっている。従って、miR-7の産生低下により発現増加したNF90は、NF45の発現を上昇させるものと考えられる。これらの平成28年度の解析結果は、当該年度の課題項目として挙げた「がん部におけるNF90-NF45の発現増加メカニズムの解明」の一端を明らかにするものとなった。従って、自己点検は上記の評価とした。
1. 骨格筋においてNF90-NF45が過剰発現すると複数の筋分化miRNAの産生が抑制される(Todaka et al. MCB 2015)。産生低下するmiRNAの中でmiR-1の標的がPax7である。Pax7は筋組織の幹細胞であるサテライト細胞のマーカータンパク質であり、筋再生には欠かせない転写因子である。骨格筋においてNF90-NF45が過剰発現しているマウスを用いた解析により、当該マウスの骨格筋ではPax7の発現が顕著に増加していることがわかっている。これらの知見より、骨格筋におけるNF90-NF45の発現増加はmiR-1の産生を抑制しPax7の発現を促進することで筋再生を促すのではないかと想定される。そこでこの作業仮説を検証するためにコブラ由来毒素であるカルディオトキシン(CTX)を用いた筋再生モデルマウスを用いる。CTXをマウス骨格筋に投与すると急速に筋破壊が進み、その後、再生が始まる。この実験系を用いて、筋破壊・再生の過程におけるNF90-NF45とPax7の発現パターンを明確にする。この解析により、筋再生時にPax7がNF90-NF45の下流にあるか、否かが明らかになるものと考えている。2. 上皮組織において内在性NF90-NF45の発現は低い。一方で我々はこれまでに膵臓のラ島において内在性NF90-NF45の発現が高いことを見出している。ラ島は血糖値の制御を行うホルモン(インスリン、グルカゴン)を分泌する組織で、生体の恒常性の維持において極めて重要な臓器である。そこでラ島における内在性NF90-NF45の機能を明確にするために、ラ島由来の細胞株を用いたIn vitroの解析と、ゲノム編集を用いてラ島特異的にNF90-NF45をノックアウトするマウスを作出し、作出したマウスの表現型を解析するIn vivoの解析を進める。
平成28年度に必要物品を購入したが、僅かに残額が生じたため。
平成29年度の消耗品費として使用予定。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
The Journal of Biological Chemistry
巻: 291 ページ: 21074-21084
10.1074/jbc.M116.748210
比較生理生化学
巻: 33 ページ: 183-190
http://doi.org/10.3330/hikakuseiriseika.33.183
http://www.kochi-ms.ac.jp/~ct_mrc/academic/Publication.html