研究課題
サテライト細胞は、筋損傷後に再生を担う筋幹細胞として骨格筋の維持には欠かせない。我々はこれまでにマイクロRNA (miRNA) の生合成において、二本鎖RNA結合タンパク質であるNF90-NF45が負の制御因子として作用することを見出してきた。加えて、NF90-NF45が過剰発現した遺伝子改変マウス (NF90-NF45 dbTg mice)の骨格筋では筋萎縮と共にサテライト細胞のマーカーであるPax7の発現が顕著に上昇していることを見出している。このことはNF90-NF45がサテライト細胞の発生に促進的に作用している可能性を示している。さらにNF90-NF45 dbTg miceの骨格筋においては、筋分化miRNAでありPax7を標的とするmiR-1の発現が顕著に低下していることもわかっている。これらの知見より過剰発現したNF90-NF45がmiR-1の生合成を抑制することでPax7の産生が上昇しサテライト細胞の発生が促進するのではないかと想定された。この可能性を検証するために申請書の研究計画に沿ってコブラ由来毒素であるカルディオトキシン(CTX)投与による筋再生モデルマウスを用いた解析を行った。マウスの前脛骨筋にCTXを投与すると、「筋損傷」から「サテライト細胞の増殖・分化」を経て「筋再生」に至る一連の過程を解析できる。そこで、この過程におけるPax7及びNF90-NF45の発現を解析した。その結果、Pax7は筋損傷後Day1で発現が顕著に上昇し、その上昇はDay7まで続いた。一方、NF90-NF45は損傷後Day3~7の間に発現上昇した。このことより、損傷直後のPax7の上昇にはNF90-NF45は関与しないが、損傷後Day3~7までのPax7の発現上昇にはNF90-NF45-miR-1経路が関与する可能性は考えられた。この可能性に関しては、さらに検証が必要となる。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度から開始した本研究課題は大きく下記の3つの研究計画に分かれる。1. がん部におけるNF90-NF45の発現増加メカニズムの解明、2. 骨格筋の幹細胞であるサテライト細胞の発生におけるNF90-NF45の役割の解明、3. 内在性NF90-NF45が膵ラ島a/b細胞のホルモン分泌及び生存に及ぼす影響の解明。項目1に関しては、平成28年度に主に解析を進め、がん抑制miRNAであるmiR-7がNF90 mRNAを標的にすることを見出し、がん部においてNF90-NF45がmiR-7生合成を抑制することでNF90の発現を上昇させるフィードバック制御機構を見出すことができた。項目2の関連については、平成29年度に主に解析を進め、上記概要にある「筋再生モデルマウスを用いた解析」以外にも、NF90-NF45 dbTg miceの骨格筋萎縮のメカニズムの解明にも取り組み、dbTg miceの骨格筋や筋芽細胞であるC2C12細胞を用いて解析を進めた。その結果として、NF90-NF45は筋分化過程の細胞融合において抑制的に作用する可能性を見出すことができた。この知見は、未分化性が高いサテライト細胞の増加にもリンクする可能性がある。今後はNF90-NF45 dbTg miceの骨格筋におけるNF90-NF45の結合パートナーをタンパク質とRNAに着目して網羅的な解析を行い、当該データを「筋萎縮」や「サテライト細胞の発生」におけるNF90-NF45の作用機序の解明に繋げる。項目3の推進に関しては、NF90もしくはNF45を膵ラ島特異的にノックアウト(KO)するマウスの作製が必要と考え、平成29年度よりその作出を進めている。現在、NF45に関しては目的とする遺伝子型を有する個体を得るに至り、平成30年度は本格的に当該マウスを用いた表現型の解析に取り組む。
今年度(平成30年度)は本研究課題の最終年度となる。これまでの研究計画の遂行により、「がん部におけるNF90-NF45の発現増加メカニズムの解明」に関しては、「miRNAを介したフィードバック制御機構」の存在を見出すことができ、本項目の目的の一部分は達成された。一方で、「筋幹細胞であるサテライト細胞の発生におけるNF90-NF45の役割」に関しては未だ十分に解明が進んでいるとは言えない。NF90-NF45 dbTg miceの骨格筋におけるNF90-NF45の結合パートナー(タンパク質及びRNA)の同定を進めることが本項目達成のカギとなると考え、当該解析を進める。同時に本項目に関しては骨格筋特異的にNF90をKOしたマウスが重要と考え、現在、その作出に取り掛かっている。平成30年度に最も解析に注力すべきは、「膵ラ島における内在性NF90もしくはNF45の役割の解明」である。現時点で、膵ラ島beta細胞特異的にNF45がKOされていると考えられる遺伝子型を有する個体を得るに至った。今年度(平成30年度)は野生型マウスと膵beta細胞特異的NF45KOマウスを用いて両マウス間の血糖値及びインスリン分泌量の比較、beta細胞の形態的変化等に着目し、解析を進める。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (8件) 備考 (1件)
Cell Research
巻: 28 ページ: 556-571
10.1038/s41422-018-0016-8
http://www.kochi-ms.ac.jp/~ct_mrc/academic/