本邦においては近年の超高齢化に伴い、失明原因として加齢黄斑変性が急増している。脈絡膜血管新生の原因となる血管内皮増殖因子 (VEGF)が加齢黄斑変性の憎悪因子であることはよく知られている。申請者は前年度までに、G蛋白制御因子AGS8がVEGFシグナルを制御することにより、脈絡膜血管新生を制御している可能性を提起した。本年度はさらなる可能性の検証を詳細に行った。C57BL/6N種のマウス眼球より脈絡膜を単離、細切、血管内皮用の培養液中でMatrigelコーティングしたカバーガラス上で培養を行った。Flow cytometer解析の結果、組織片から外側に向かって移動する細胞の70%以上が血管内皮細胞であることを確認している。また、移動中の細胞はAGS8抗体による免疫染色により、ほぼ100%がAGS8分子を発現していることを確認している。そこで、SiRNAを用いてAGS8遺伝子の発現をノックダウンし、組織片から外側に移動する細胞の解析を行った。その結果、対照に比べてAGS8ノックダウンでは、細胞移動が有意に抑制することが明らかになった。これまでの研究成果と合わせて本研究の結論として、①脈絡膜内皮細胞においてAGS8はVEGF受容体と複合体を形成しVEGFシグナルを制御する。② 加齢黄斑変性モデルマウスにおいて、AGS8は脈絡膜血管新生を制御しており、その際、AGS8は特に内皮細胞の細胞移動を制御する。③加齢黄斑変性モデルマウスにおけるAGS8分子の発現抑制は脈絡膜血管新生を特異的に抑制する。以上より本研究ではAGS8が加齢黄斑変性治療の新しい標的分子となりうる可能性を示すことができた。
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