研究実績の概要 |
私達は、血管内皮細胞の主要な接着分子PECAMがα2,6-シアリル化糖鎖を持つこと、そしてα2,6-シアリル化糖鎖に対するレクチン活性を持つこと(S. Kitazume et al. (2014)J. Biol. Chem. 289, 20606)を最近明らかにした。α2,6-シアル酸を欠損した血管内皮細胞でPECAMはホモフィリックな相互作用が出来なくなるために細胞表面に停留できず、エンドサイトーシスされてしまうために生存シグナルを細胞に送ることが出来なくなる結果、アポトーシス刺激に脆弱になることも分かった。 今年度はPECAMが細胞表面に停留できなくなる結果、パートナー分子であるVEGFR2やintegrinβ3も細胞表面の発現量が低下し、細胞内に異常なシグナル伝達をする結果、腫瘍血管新生が減退する分子機構を明らかにしたため、現在論文としてまとめており、投稿間近である。 また、α2,6-シアリル化糖鎖をミミックする化合物がPECAMアンタゴニストとして作用することで抗血管新生阻害剤になるのでないか、との期待の元にスクリーニングを行った。今年度はPECAMに結合する化合物を理研化合物アレイを用いて3万化合物のスクリーニングをした結果、11種類のヒット化合物を見出した。また独自にα2,6-シアリル化糖鎖をミミックするペプチドを共同研究者より分与して頂き、PECAM-PECAM相互作用のアッセイ系に添加したところ、予想外に相互作用を強める化合物を見つけた。この化合物は血管透過性を抑制する効果を持つことが期待できるため、さらに次年度は解析を進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度、3万種類の化合物を搭載する化合物アレイの中から、PECAMに結合するヒット化合物を複数同定することが出来たのは、大きな進展と言える。また、これとは別にα2,6-シアリル化糖鎖をミミックしたペプチドがPECAM-PECAM相互作用を増強する効果があることを偶然にも発見した。このことは、私達の構築したin vitroの実験系でPECAMのアンタゴニストとアゴニストの両方をスクリーニングできる可能性を示している。 さらに、本年度は in vivoでのα2,6-シアル酸の欠損によって腫瘍血管新生が減退すること、その分子的背景を明らかにした論文をまとめることが出来たのも大きな収穫である。
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今後の研究の推進方策 |
α2,6-シアリル化糖が腫瘍血管新生を調節する機構の背景としてとしては、PECAMがα2,6-シアル酸依存的にホモフィリックに相互作用するため細胞表面にとどまり、パートナー分子分子であるVEGFR2やintegrinをとどめてシグナル伝達を調節する分子機構を明らかにしたため、論文をまとめ、投稿直前まで来ている。現在、共同研究者からのコメントを集めており、コメントを集約して投稿作業を進める計画である。 また、PECAMに結合するヒット化合物11種類を前年度に同定したので、本年度はPECAM-PECAM相互作用にどのような影響を与えるか否か、in vitroで解析を進めていく計画である。また、予想に反してPECAMアゴニストとして作用するペプチドを発見したため、血管内皮細胞を用いてその効果を確認していく計画である。
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