研究課題
私達は最近、血管内皮細胞に特異的に発現する接着分子PECAMがα2,6-シアル酸特異的に結合するレクチン活性を持つこと、α2-6シアリル化糖鎖を添加するとPECAM同志の相互作用が失われて細胞表面に停留できなくなり、PECAM依存的な生存シグナルを細胞に伝達できなくなることを明らかにした(S. Kitazume et al J. Biol. Chem. 285, 6515, (2010)、S. Kitazume et al. J. Biol. Chem. 289, 27606 (2014))。2017年度は化合物ライブラリーを用いてα2-6シアリル化糖鎖をミミックするようなPECAMアンタゴニストとなる化合物探索を引き続き進め、複数の候補化合物を見出した。また、本研究の根幹となる発見は、α2-6シアリル化糖鎖を欠損させたなマウスにおいては腫瘍内の血管新生が特異的に減退し、その結果、腫瘍の壊死が亢進するというものであり、Oncogeneに投稿していたが、レビュアーからいくつかの追加実験を求められた。まず、ポリライゲーションアッセイによって、α2-6シアリル化糖鎖を欠損させた血管内皮細胞においては、PECAMと複合体を形成しているVEGFR2がPECAMと共にエンドサイトーシスされて細胞に過剰なシグナルを伝達することをみいだした。また、polyHEMAコートしたプレート上でα2-6シアリル化糖鎖を欠損させた血管内皮細胞を培養することで、インテグリン依存的なアノイキスが昂進していることが血管内皮細胞死につながっている可能性が高いことなどを明らかにした。これらの結果をまとめ、再投稿を行った結果、受理された。
2: おおむね順調に進展している
血管内皮細胞系を用いてpolyligation assayを行うことで、PECAM-VEGFR2 complexの可視化に成功した。α2,6-シアリル化糖鎖を添加することで細胞内のPECAM-VEGFR2複合体の量が増大することを見出した。複合体のエンドサイトーシスが更新していると考えられる。また、この時に細胞に伝達されるシグナルを特定するため、リン酸化アレイ解析を行った結果、EGFR2のリン酸化が更新していることを見出した。α2,6-シアリル化糖鎖がPECAM-VEGFR2-インテグリンの協同的な機能調節を行っていること、その下流にEGFR依存的なシグナル伝達経路が連結していることなどが明らかになった。これらの結果を元に、α2,6-シアリル化糖鎖をミミックする化合物をスクリーニング中である。具体的にはPECAMに結合する化合物をライブラリーから見出し、その中からPECAM-PECAM相互作用を調節する化合物を二次スクリーニングしている。
PECAMに結合する化合物の中には、in vitroでPECAMPECAM相互作用を弱めるタイプに加え、強めるタイプもあることが分かってきた。前者は抗血管新生阻害剤候補と考えられる一方で、後者は血管内皮の透過性をブロックする効果を持つ可能性が考えられる。そのため、両タイプの化合物について引き続き、さらなるスクリーニングを行っていく計画である。具体的には血管内皮細胞のアポトーシス感受性を高める効果の有無、血管内皮細胞の透過性をブロックする効果の有無について調べ、有望な化合物についても類縁体化合物ファミリーを探索し、より効果を高い化合物の探索も同時に行っていく計画である。
本申請者の主たる所属が理研から福島医大に変更となり、移動の時期は候補化合物の2次スクリーニングに関する実験量が減った。そこで、次年度に、二次スクリーニングに関して、計画当初予定していた以上の実験内容(細胞培養、生化学的解析)が計画されているため、これらの実験に必要な使用額を変更したい。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
Oncogene
巻: - ページ: -
10.1038/s41388-018-0271-7
Frontiers in Immunology
10.3389/fimmu.2018.00820
BBA - General Subjects
10.1016/j.bbagen.2018.04.004
Glycobiology
巻: 2017 ページ: 1006,1015
10.1093/glycob/cwx075
http://www.fmu.ac.jp/univ/kenkyuseika/research/180510.html
http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180510_1/