研究課題
本研究の目的は、モデル動物とヒト疾患患者の解析を通して、雌性生殖機能を調節する新たな分子機構を明らかにすることである。平成28年度は、つぎに挙げる2つの遺伝子に着目し、マウスを用いた解析を行った。われわれのこれまでの解析から、Mastermind-like domain containing 1(MAMLD1)は、妊娠マウス卵巣の黄体退縮(母体の血中プロゲステロン濃度の低下)に関与し、分娩の開始時期を調節することがわかっている。しかし、非妊娠時のMAMLD1の機能は未解明であった。そこで、本研究では、MAMLD1が非妊娠時の卵巣ステロイドの産生・代謝に関与しているかを解明する。非妊娠マウスの卵巣を用いてMamld1遺伝子の発現解析を行った。過排卵処理によって性周期をそろえた非妊娠野生型マウスでは、排卵後(排卵当日)の卵巣に比べて、排卵前日の卵巣におけるMamld1遺伝子の発現量が有意に高値であることを見出した。このことから、非妊娠時のマウス卵巣において、MAMLD1は下垂体ホルモンによって制御されて、機能していると推測される。つぎに、われわれはヒト46,XX精巣性性分化疾患の原因となる新たな遺伝子変異(NR5A1 p.R92W)を同定した。ヒトで見られた症状がマウスでも起こるかを調べるために、同変異を導入したマウスを作製し、その性腺について形態学的な解析を行った。p.R92Wホモ導入およびヘテロ導入のXXマウスでは、卵巣から精巣への変化は認められなかった。このことから、NR5A1変異による精巣形成はヒト特異的な現象であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
非妊娠マウスの卵巣にMamld1遺伝子が発現していること、排卵前日における発現量が排卵後(排卵当日)よりも高値であることを明らかにした。さらに、NR5A1 p.R92W変異を有する46,XX性分化疾患患者では精巣が認められるが、p.R92Wホモ導入およびヘテロ導入のXXマウスでは精細管が認められないことを見出した。同変異がヒト特異的46,XX精巣形成を誘導することが明らかになった。本研究の成果は、雌の生殖機能に関与する新たな遺伝子相互作用の解明につながると期待される。
自然排卵の非妊娠野生型マウスを用い、性周期に伴って卵巣のMamld1遺伝子の発現量が変動するかを検討する。また、非妊娠野生型マウスの血中ステロイドホルモン(とくにプロゲステロンとその代謝産物)の濃度測定を行い、卵巣におけるMamld1遺伝子の発現量の変化が卵巣ステロイドホルモンの産生・代謝に与える影響を調べる。NR5A1 p.R92Wヘテロ導入のXXマウスの卵巣および子宮について、組織学的および免疫組織学的な解析を行い、雌性生殖器官における形態の異常の有無を明らかにする。また、交配実験を行い、同変異がマウスの妊孕性に影響を与えるか否かを確認する。
当初の予定よりも予備実験が順調に進んだため、予定していた人件費・謝金を支出することなく、計画を進めることができた。
非妊娠マウスの卵巣を用いた遺伝子発現解析および血中ホルモンの濃度測定を行う予定である。得られた研究成果について学会発表および論文発表を行うため、学会参加費、英文校閲費および論文別刷り費に充てる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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