研究課題
本研究の目的は、モデル動物とヒト疾患患者の解析を通して、雌性生殖機能を調節する新たな分子機構を明らかにすることである。平成29年度は、主にマウスを用いた解析を行った。Mastermind-like domain containing 1(MAMLD1)は、妊娠マウス卵巣の黄体退縮(母体の血中プロゲステロン濃度の低下)に関与し、分娩の開始時期を調節する因子である。本研究では、MAMLD1が非妊娠時の卵巣ステロイドの産生・代謝に関与しているかを解明するため、自然排卵の非妊娠野生型マウスの解析を行った。非妊娠野生型マウスを用いて、血中ステロイドホルモン(プロゲステロンなど)の濃度測定を行った。個体間でのホルモン値のばらつきが大きく、サンプル数を増やす必要があることがわかった。つぎに、われわれが同定したヒト46,XX精巣性性分化疾患の原因となる遺伝子変異(NR5A1 p.R92W)を導入したマウスについて表現型解析を行った。NR5A1 p.R92Wヘテロ導入XXマウスの卵巣重量および産仔数は野生型と同等であった。半年を過ぎても、同変異へテロ導入XXマウスの妊孕性低下は認められなかった。このことから、同変異はマウスの妊孕性に影響を与えないことが明らかになった。最後に、ヒトMAMLD1遺伝子の発現量の変化が卵巣ステロイド産生に与える影響を明らかにするため、MAMLD1遺伝子(野生型および変異型)の発現ベクターを作製した。解析に使用する培養細胞を用いて、培養および遺伝子導入の条件検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
非妊娠野生型マウスにおける血中ステロイドホルモン(プロゲステロンなど)の濃度測定にはサンプル数を増やす必要があることがわかり、追加のサンプリングを行った。NR5A1 p.R92Wヘテロ導入マウスの精巣重量は野生型マウスと比べて減少しているが、卵巣重量は野生型マウスと同等であることを見出した。同変異が生後のマウス性腺の発育に与える影響は、精巣と卵巣で異なることが明らかになった。ヒトMAMLD1遺伝子の発現量変化が卵巣ステロイド産生に与える影響を解析するための予備実験を行い、in vitro解析の系が構築できた。本研究の成果は、雌の生殖機能に関与する新たな遺伝子相互作用の解明につながると期待される。
非妊娠時のMamld1遺伝子欠損マウスにおいて排卵と黄体退縮が正常に起きているかを明らかにするため、膣スメアを採取して性周期を調べる。NR5A1 p.R92Wヘテロ導入のXXマウスの卵巣および子宮について、組織学的および免疫組織学的な解析を行い、雌性生殖器官における形態の異常の有無を明らかにする。卵巣顆粒膜細胞腫瘍株を用いて、ヒトMAMLD1遺伝子の発現量変化が卵巣ステロイド産生に与える影響を明らかにする。さらに、MAMLD1遺伝子用のレポーターアッセイ系を用いて、予定日超過分娩例、早発卵巣機能不全患者および多嚢胞性卵巣症候群患者において同定した変異の病的意義の有無を検討する。
今年度は経費があまりかからないサンプリングと次年度使用予定のプラスミド作製を中心に行ったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額と2018年度配分額と合わせて、2018年度の研究計画を実行する。得られた研究成果について論文発表を行うため、英文校閲費および論文別刷り費に充てる。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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