研究課題/領域番号 |
16K08604
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
杉本 昌隆 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 老化機構研究部, 室長 (50426491)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞老化 / 呼吸器疾患 / モデルマウス |
研究実績の概要 |
前年度は、肺組織から老化細胞を特異的に排除可能なマウス(ARF-DTRマウス)を用い、肺組織の加齢性変化の多くが細胞老化に依存した現象であることを報告した。肺組織の老化は、様々な疾患が生じやすい環境をつくると考えられている。そこで当該年度は、肺気腫モデルを作製し、老化細胞の排除が肺気腫病態の進行に与える影響について解析を行った。 マウスでは解析可能なレベルで肺気腫を発症する遺伝子改変モデルは存在しないため、エラスターゼ吸入による肺気腫モデルを樹立した。マウスにブタ膵臓由来エラスターゼ(PPE)を吸入させると、3週間後には広範囲に及ぶ肺胞壁の崩壊が認められた。しかしながら老化細胞を排除したマウスでは、肺胞壁の崩壊は顕著に抑制され、平均肺胞径の増大は有意に抑えられていた。また呼吸機能検査により、肺機能を測定したところ、PPE投与マウスでは組織弾性の低下が生じるのに対し、老化細胞を排除したマウスでは組織弾性の低下はほぼ抑制されていた。PPE誘導性の肺気腫は、薬剤吸入後初期に惹起される肺胞内の炎症反応に依存することが知られている。そこで、PPE処理1週間後の肺胞内炎症性細胞を計測したところ、対照群と比較して3倍以上の炎症性細胞の増加が認められた。しかしながら、老化細胞を排除したマウスではPPE投与による炎症性細胞の増加は有意に抑えられていた。したがって、肺組織内の老化細胞は炎症が惹起されやすい環境を作ることにより、肺気腫病態を促進することが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況に関しては、ほぼ予定された期間内に計画した解析を完了させることができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度までの解析から、老化細胞が肺気腫の予防や治療に有効な標的であることが強く示唆された。そこでこの知見の将来的なヒトへの応用を見据え、改変遺伝子に依存しない薬剤による老化細胞除去を試みる。近年、様々な老化細胞特異的に細胞死を誘導する活性を持つ薬剤が報告されている。これらはSenolytic薬と呼ばれ、複数の疾患モデルにおいて細胞老化に依存した表現型を緩和することが示されている。そこで、肺気腫モデルにおいてSenolytic薬の投与を行い、肺気腫病態におけるこれら薬剤の有効性について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)再び当施設内でラボスペースの移動があったため、フリーザー等機器の更新が年度内にできなかった。 (使用計画)本年度は一部機器の更新と、外注による遺伝子発現解析を行う。
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