生活習慣病の一つである糖尿病は、血糖値のコントロールに加え、病状が進行した際には3大合併症に対する治療が必要となる。とりわけ糖尿病性壊疽を引きおこす創傷遅延はきわめて難治性であり、その遅延を引き起こす詳細な機序は未だ不明である。本研究では、糖尿病由来MSC(DAT-MSC)の特性を健常者由来MSC(AT-MSC)と比較検討することにより、創傷遅延を引きおこす原因遺伝子を探索することを目的に行った。申請者は、既にAT-MSCが他組織由来MSCと比較して、1)増殖能が高く、2)血管再生能に優れていることを報告している。当該研究では、DAT-MSCとAT-MSCにおいて、以下の項目について比較検討を行った:1)細胞形態、2)細胞増殖能、3)細胞分化能、4)細胞表面マーカー。3)の細胞分化能において、DAT-MSCがAT-MSCと比較して、脂肪への分化能が亢進していることが明らかとなったが、他項目において有意差は見られなかった。5)の比較項目として、創傷治癒モデルマウスを用いた創傷治癒能の解析を行ったところ、細胞移植後7日目において、DAT-MSCにおいて有意に低下していることが明らかとなった。両者間の遺伝子発現解析により、EGR-1 (early growth response factor-1)の発現が、有意にDAT-MSCにおいて上昇していることが明らかとなった。加えて炎症性サイトカインIL-6の発現がDAT-MSCにおいて有意に上昇していた。次にDAT-MSCの機能改善を目的として、細胞から放出されるマイクロベシクル(MV)をAT-MSCから回収し、その機能解析を行った。正常AT-MSC由来MVを取り込んだDAT-MSCは、細胞遊走能、生存能、血管再生能に係る遺伝子発現上昇が見られ、さらに、DAT-MSCと比較して有意に創傷治癒能が向上することが明らかとなった。
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