神経芽腫モデルであるTH-MYCN TgマウスとMidkineノックアウトマウスに基づき、Midkineが神経芽腫の骨髄転移細胞において、抗がん剤であるシスプラチンに対する耐性誘導に寄与している可能性を見出した。すなわち、Midkineノックアウトマウスにおいて、シスプラチン治療後に骨髄から採取した神経芽腫細胞のin vitroでの自己複製能が損なわれていることを示唆する結果を得ている。骨髄は神経芽腫の好再発部位の一つであり、骨髄転移巣を効果的に叩く治療法開発のインパクトは大きい。シスプラチンとMidkine標的治療とを併用することにより、この骨髄転移巣を効果的に叩くことができる可能性がある。一方、Midkineの細胞内シグナル伝達メカニズムの解明へのアプローチとして、マウス線維芽細胞 (MEF)がMidkineに対して顕著に応答し、mTORを介したタンパク質合成経路が活性化されることを見出した。この応答は添加後5分から認められることから、Midkineの受容体を介した直下流の細胞内シグナルであると考えられる。これまでは、Midkineに明確に応答するin vitroの実験系が無かったことから、その細胞内シグナル伝達機構の解明が立ち遅れてきたが、このMEFはその突破口になるものと考えられる。更に、MEFという線維芽細胞がMidkineに応答したことから、がん組織におけるMidkineの作用について、その標的ががん細胞だけでなく、線維芽細胞等、間質を形成する細胞も含まれる可能性が示唆される。がん組織ではCancer Associated Fibroblast (CAF)の寄与が明らかになってきており、 今回見出したMidkineに対するMEFの明確な応答は、神経芽腫組織において、がん細胞から分泌されたMidkineがCAFにも作用していることを想起させる。
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